2016年4月30日土曜日

君付け、さん付け

 職場に限らず、取引先や下請けを含めた仕事関連、そして趣味のつながりに至るまで、この世にはさまざまな人間関係が存在する。そしてやっかいなのが、相手に対する呼び方だ。
 学生時代に全学年が混じりあって暮らした学生寮やサークル活動で、まずこの呼び方の洗礼を受けた。幸いここには絶対ルールがあって、「年齢は無関係に、先に入学したものを《さん付け》で呼び、それ以外はすべて《君付け》か呼び捨てで呼ぶ」という分かりやすいものだった。
(大学は工業系で当時女子は皆無に近く、男女による呼び分けの面倒はなかった)

 高校時代に隣のクラスだった同級生が同じサークルの1年先輩にいて、私は一浪で彼は現役合格。多少はやりにくかったが、絶対ルールに従って、卒業するまで《さん付け》で通した。


 23〜32歳の9年間会社勤めを経験したが、平社員同士の場合、相手が年上や異性なら《さん付け》という暗黙のルールがまずあり、相手が役職についたとたん、上司側が格下を《君付け》で呼び、格下側は年齢に関わらず相手を「…係長」などと、役職名をつけて呼ぶのが慣習だった気がする。
 1年先に入社した高卒社員とは4歳の開きがあったが、年齢差を尊重して「菊地さん」と呼んでくれる相手と、社歴を重んじて「菊地君」と呼ぶ相手とに分かれていた。
 平社員同士の場合、ルールそのものが曖昧なので、人によって対応が分かれるということだ。
 サラリーマンという縦社会では、役職や社歴に応じて相手の呼び方を変えるのもやむを得ない気がするが、独立して事業主となった後も、この「時に応じて呼び方を使い分ける」という相手に、しばしば遭遇した。
 基準そのものが私にはよく分からないが、相手が下請け孫請けの格下だと《君付け》、そうでない場合は《さん付け》と使い分けているように思われた。

 事業運営にはお金がからんでくるので、仕事をやる貰うを基準に呼び方を変える考えも理解できなくはない。しかし、たとえ一人の事業でも独立した事業主の場合は、相手が下請けだろうが年下だろうが、きちんと《さん付け》で呼んで尊重すべきと私は考えるし、実際そうしてきた。
 独立以降に、サッカーや物書き、音楽やボランティアなど、さまざまな趣味や社会活動に関わってきたが、上下関係とは無縁のはずのこうしたつながりにおいても、どういうわけだかこの「相手の呼び方」で、暗黙の上下関係を持ち込む人々がいて閉口する。

 これまた基準がよく理解できないが、事業運営における例と同様に、年齢やキャリア(あるいは学歴?)が自分より「格下」と意識下でみなしている相手には《君付け》、そうでない相手には《さん付け》と使い分けているふしがある。もしそうなら、油断ならぬ縦社会ルールの持込み行為である。
 呼称を変えるほどのキャリアも技術も持ちあわせていない我が身なので、面倒を避ける意味でも、この種の場でもまた、すべて《さん付け》で通している。

 ネットで検索してみると、「相手によって呼び方を変える輩は信用できない」と断言している記事にいくつか遭遇するが、気持ちはよく分かる。