昨年暮れに別施設で初めて歌ったが、有料老人ホームに形態は似ているが、運営実態は微妙に異なる。扱いは一般の賃貸住宅で、居住者の実情に応じて食事や介護サービスを受ける、というシステムだ。
さまざまな居住者がいて、介護度もバラバラ。高齢者が対象であることは間違いないが、一般の街づくり系イベントの聴き手とも異なる。傾向として自立度は比較的高いが、つかみどころがなく、歌い手にとっては難しい場だった。
同じ理由から、かっては苦手としたデイサービス系の場には最近になってようやく慣れてきたが、初めての施設ということもあり、手探りの進行にならざるを得なかった。
開始予定は13時半だったが、自宅からは近く、わずか20分で着いた。先方の都合で予定を少し前倒しし、早めに始めることになる。13時22分から歌い始め、およそ35分で12曲を歌った。
「憧れのハワイ航路」「瀬戸の花嫁」「花笠音頭」「月の沙漠」「幸せなら手をたたこう」「長崎の鐘」「リンゴの唄」「バラが咲いた」「月がとっても青いから」「知床旅情」「東京ラプソディ」「青葉城恋唄」(リクエスト&アンコール)
何が受けるか分からないので冒険は避け、実績のある無難な曲でまとめた。ニギヤカ系と叙情系のバランス、さらには年代のバランスも偏らないように工夫した。
全体として大きな失敗はなく進んだが、施設ができてまだ間もないということもあってか、50人ほどの聴き手はおしなべて物静か。傾向としてニギヤカ手拍子系の歌より、叙情系の歌が好まれたように思える。
「長崎の鐘」を歌う前に、古い曲を求められることもあるので次はそんな曲を…、と話したら、「ここの施設には、そう高齢の人はいませんよ」と、熱心に聴いていた最前列の女性から声がかかる。
反応次第では飛ばすつもりで曲名を告げると、ああその歌ならいいですね、と応じてきた。まあ、古いといっても、この日のメニューの中では、という比較の問題。私が生まれた年の曲なので、「古過ぎる」ということはないはず。
先方の要望通りに歌い終えたが、終了後の場に微妙な余韻が残った。うまく言葉では表わせないが、(もっと聴きたい…)という心の叫びのようなもの。歌い手には直感的にそれが分かるものだ。
しかし、演奏ボランティアそのものに職員も聴き手も慣れていないのか、特にアンコールの声はかからない。ゆっくり機材の片づけにかかり、進行の方がまとめの挨拶に入ったところで、最前列の女性からようやく、「あの…、《青葉城恋唄》が聴きたいんですが…」との遠慮がちな声。
早めに始めたこともあり、1曲なら時間的にも問題ないということで、ありがたく歌わせていただく。昨年暮れに初めて歌ったサ高住でもアンコールに「大空と大地の中で」が飛び出して面食らったが、曲調は別にし、フォーク系の新し目の歌であることは共通する。
アンコールで出た要望は、その施設の傾向を概ね示す、と考えてよい。まだまだ手探り段階だが、サ高住ではデイサービスと同様に、街づくり系の場で好まれる昭和歌謡系やフォーク系の曲を中心に据えてよいのかもしれない。