私の得意ジャンルなので、「何に使うのですか?」と尋ねると、イベントのBGMで随所に流し、締めくくりのフィナーレでも尾崎紀世彦の「また逢う日まで」を流して、それに合わせて全員が歌う予定だという。
「そうだ、ひょっとして菊地さんに生演奏で歌ってもらうとか…。レパートリーに入ってます?」
昭和歌謡の定番曲なので、もちろん歌える。週末だが、スケジュールもぽっかり空いている。CD音源に合わせるより、生演奏でシング・アウトしたほうが盛り上がるのは明らか。
通算5回目となる今年の夏まつりはステージの予定がなく、日程も1日限定で規模が縮小した。例年何かしらの形で依頼される私の出番はないものと思っていたが、ひょんなことから、今年も協力することになった。
イベントは11時から始まっていたが、会場入りした17時にはすでに終盤。当初はご当地盆踊り終了後にホール中央で歌うと聞いていたので、そのつもりで機材一式を組立て、スタンバイしていた。
ところが、盆踊りが終わるとホールにいた人々は一斉に隣接するロビーへと消え、ホール内の出店は片づけが始まった。どうも雰囲気がおかしい。ロビーでは最後に残った食べ物系出店が値引きに入り、けっこうな盛り上がりよう。
このまま予定通りホールで歌うのは、どう考えても無理があり、いつも「叙情歌サロン」で歌っているロビー内で歌い納めるのが自然な流れである。
事務室に行って、館長さんと再交渉。ロビー内にある全ての椅子や出店に見通しがきく、ホール出入口付近で歌うことを提案。了解を得た。
祭りの余韻がしばし消えないので、時間を15分遅らせ、終了ぎりぎりの17時45分から歌うことになる。PAは1台のみだったので、移動は短時間で済んだ。
1曲限定で、手慣れた曲だが、歌うキーには直前まで迷った。尾崎紀世彦の原曲ではDで歌っているが、私は普段Cで歌う。しかし、これでもまだ高すぎる気がし、前日にはもうひとつ下げたB#の譜面も準備した。
当日になってまた不安になり、妻に一緒に歌ってもらったら、女声だと逆にB#は歌いにくく、むしろCのままでよい、との結論。チェックしてもらってよかった。
本番は無難にこなしたが、進行の方が上手にリードしてくれて、サビの部分を曲間で歌詞指導しつつ、全員で歌うという趣向がピタリはまり、スタッフや出演者が中心の場は、自然発生的な手拍子も飛び出して大変な盛り上がりよう。
終了後、またまた場に余韻が残り、アンコールが飛び出しそうな雰囲気にもなったが、楽しみは次回への期待として持ち越すのも、時にはよい。
突発的な依頼だったが、予想を超える成果を出せたと思う。直前のステージ変更の判断も正解。館長さんにも喜んでもらえた。