100回目の記念すべき路上ライブを無事に終え、いつものように地下に降りて北4条広場へと向かう。平日のアカプラパフォーマンスは音の関係から昼休み限定で、天候次第では会場に着いてから演れなくなる可能性もある。
そこで時間や経費のロスをなくすべく、14時からの地下広場とセットでエントリーするようにしている。
14時から第1ステージ開始。前回反応のよかった演歌系昭和歌謡から歌い始めたが、2曲目の途中で2人組の中年女性が近寄ってきて、リクエスト一覧を手に話し合っている。
「何かリクエストございますか?」と問いかけると、一覧にはないようだが、「愛の奴隷」は歌えないか?と尋ねてくる。聞き慣れないタイトルなので、奥村チヨの「恋の奴隷」の間違いでは?と返すと、外国の曲だという。いずれにしても歌えない。
その後やりとりがあって、トム・ジョーンズの「思い出のグリーングラス」を結局歌うことになった。
どうやら歌唱を気に入って貰えたらしく、次は何を…、と相談し始めた。まとまるまでのツナギで「つぐない」を歌い始めたら、別の中年女性が近寄ってきて一覧を手にとり、終わるとただちに「青葉城恋唄」をぜひに、とのリクエスト。
大好きな曲だが、このところ聴く機会がなく、生の弾き語りで聴けるとはうれしい、と言い添える。以降、この3人の女性による交互のリクエストで、35分で10曲を歌う。(※はリクエスト)
「二輪草(初披露)」「長崎は今日も雨だった」「思い出のグリーングラス※」「つぐない」「青葉城恋唄※」「ワインレッドの心※」「アメイジング・グレイス※」「吾亦紅※」「越冬つばめ※」「古城※」
歌の好きな方々がそろったとみえて、演歌から洋楽、ポップスとリクエストの幅が広い。ジャズ以外の多ジャンルが一通りリストには入っているので、まさに私にぴったりのお客さんである。
他にも立ち止まる人がけっこういたが、場が3人の独占状態となってしまい、リクエストを受ける余裕がなかった。申し訳ないことをした。
共演のジャグラーが広場に現れたのを機に、14時35分で打ち切りとさせていただく。「久しぶりに楽しい思いをさせてもらった」と、3人は満足した様子。
この日は地上と同じく、地下通りも人が少なく感じられたが、ステージ自体は濃密だった。
40分休んで、15時15分から第2ステージ開始。フォーク系の曲を中心に30分で7曲を歌う。
「落陽」「アビーロードの街」「北の旅人」「ダスティン・ホフマンになれなかったよ※(2度歌う)」「大空と大地の中で」「空に星があるように※」
人通りに比例してか人の集まりはよくなく、前回強かった曲を前半に並べても、第1ステージのように熱心な方は現れない。
前回通りすがりの方から指摘され、ギター奏法に修正を加えた「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」を練習のつもりで歌い始めたら、はるか遠くからじっと見つめる視線を感じる。早足で近づいてきた中年女性、間近に近寄ってきて、熱心に聴き始めた。
終わると盛大な拍手。「まさかこの歌を生演奏で聴けるとは思わなかった」と、歌にまつわる思い出やら身の上話など、とつとつと語り始めた。他に聴き手がいなかったので、あれこれと応じているうちに、「いまの歌、もう一回歌って欲しい」と請われる。最近よくあるパターンだが、よほどの思い入れがあるとみえて、目に涙を浮かべて聴いてくれた。
ギター奏法に関しては、ストロークでの3連符奏法がうまくやれた。確かにこちらのほうが盛り上がる。
女性が去って、また誰もいなくなった。持ち時間が少なくなったので、終わりのつもりで「大空と大地の中で」を歌い始めると、第1ステージ終了後に現れて「次は何時から演りますか?」と熱心に尋ねてきた若い女性が、手を振りながら笑顔で近づいてきた。
リクエスト一覧はすでに渡してあったが、あいにく残り時間がない。皮肉なことに「大空と大地の中で」の歌で10人近い人がバタバタと集まってきて、それぞれ一覧を手にとり、いまにもリクエストが出そうな気配。
いかにも間が悪かったが、ここは優先権のある若い女性のリクエストを尊重することにした。それにしても「大空と大地の中で」は強い。もっと早い時間に歌うべきだった。
終了後に話したが、50年も前の曲である「空に星があるように」は、BEGINのカバーを聴いて知り、自分の思い出とリンクしているようで、以来大好きになったという。
実はこの歌は妻も非常に好きで、そのために覚えたもの。妻にも曲に対する深い思いがある。奇しくもこの日は、そんなリクエスト曲に2つも遭遇した。