2015年7月3日金曜日

出会い重ねて100回目

 ちょうど10年前の2005年5月、モエレ沼公園を舞台に最初の路上ライブを仕掛けてから、ついに通算100回目を迎えた。ひとつの目標にはしてきたが、実現する日がくるとは正直思ってなかった。
 当時はまだブログを始めてなく、記録はホームページでしかうかがい知れないが、改めて読み返してみると、我が路上ライブの原点は、まさにここにあったのだと感慨深い。

 100回目は同じモエレ沼公園でやろうかと画策していたが、天候その他の事情により、断念。以前からエントリーしていたアカプラパフォーマンスが結果として100回目の舞台となった。1回目と同じ青空の下で演れたので、これも何かの巡りあわせかもしれない。


 異常低温とそれに伴う長雨がようやく終わり、まずまずの天候。しかし、風がかなり強い。
 前回のアカプラでの手応えがいまひとつだったこともあり、この日はベンチ(花壇)に座ってマイペースでじっくり歌おうと、前日から決めていた。マイクスタンドが低くなるので、風にも強いスタイルだ。

 前回はフォーク中心に歌ってみたが、何を歌っても受けるときは受けるし、受けないときは受けないと悟った。ならば歌いたい曲を好きに歌うべきだと以前の路線に戻し、洋楽を中心に50分で13曲を歌う。

「ボラーレ」「サンタ・ルチア」「レット・イット・ビー(オリジナル訳)」「End Of The World(オリジナル訳)」「ろくでなし」「ドミノ」「ミスター・サマータイム」「カントリーロード」「オー・シャンゼリゼ」「イエスタデイ(オリジナル訳)」「夕凪ワルツ(オリジナル歌詞)」「ケ・セラ・セラ」「愛の讃歌」
 朝方は見えていた太陽が雲に隠れてしまい、風も強いせいか、人通りは多くない。10年前のように自己紹介も曲紹介も一切せず、淡々とひたすら歌い続ける。
 節目の100回目とはいえ、初回にはあった妻の「引率」もなく、事前の告知も一切しなかったので、用意された聴き手は全くいない。

 5曲目の「ろくでなし」を歌っていると同年代と思しき夫婦連れが立ち止まり、じっと聴いてくれた。
 終わると「いまの曲のタイトルは何ですか?」と男性が訪ねてくる。この世代なら知っているはずと思いつつも、「ろくでなし」というシャンソンで、越路吹雪が歌って大変ヒットしました、と応ずる。
 すると、フランス語のタイトルは分かりますか?と重ねて問うてきた。「モヴェ・ギャルソン」と応えると、誰の曲でしょうか?と再び問う。実はずっとフランスに暮らしていて、以前に聴いたことのあるメロディだと添える。
 アダモの作詞作曲ですと譜面を見ながら応えると、ようやく納得してくれた。電子譜面にはMC用に各種データを付記してあるが、思わぬところでそれが役立った。
「ミスター・サマータイム」を歌っていると、小さな男の子が目の前に現れ、好奇心に満ちた目でじっと見ている。PAに耳をあてたり、料金箱をのぞいたり、忙しい。
「このコードを伝わって音が出るのさ。箱には電池が入ってる」と教えてあげた。

 そばを離れないので、「カントリー・ロード」を歌ってあげると、大喜びで拍手しながら回りを飛び回っている。「小学生?」と尋ねると、幼稚園だとの応え。
 小さなファンにすっかりなつかれてしまい、「小学校できっと習うよ」と、「オー・シャンゼリゼ」を続けて歌う。真横の花壇上に立ち、電子譜面の操作を背後から興味深く覗きこむ。
「こうやって歌を探しているんだよ」と、ていねいに教えてあげた。

 遠くのベンチにいた若いお母さんから呼ばれ、「バイバ〜イ!」と、ようやく去っていた。曲の途中だったが、間奏で「ありがとう、またね!」と手を振って応ずる。
 ささやかな出会いがきっかけで、しばしば人生は変わる。今回のことが記憶の片隅に残り、将来彼が弾き語りでも始めてくれたらうれしい。そんなことを考える。


 陽射しが戻ってきたラスト2曲でも家族連れの子供2人に囲まれたが、終了時刻が迫っていたこともあり、ここでの交流はなし。
 13時ぎりぎりまで歌って機材をゆっくり片づけていると、看板を見つけた若い男性が近寄ってきて、フォークや昭和歌謡を演るんですか、ライブは何時から始まりますか?と問うてくる。
 フォークや昭和歌謡が大好きとのことだったが、時間外のパフォーマンスは厳禁でその旨を告げると、大変残念がっていた。

 持参のサンドイッチを食べ、次なる会場の地下広場に向かおうとすると、同世代の女性が近寄ってきて、「愛の讃歌」久しぶりに聴けてよかったです、と声をかけてきた。どこかのベンチでずっと聴いていてくれたらしい。
 今回歌ったアカプラの北側花壇は、前後左右を多数のベンチに囲まれているので、いわば「全方位型ステージ」ともいえる。視野に入らない場所でも、誰かが密かに聴いていることがよくある。聴き手が前方に限定される地下広場とは異なる面白さだ。
 老若男女、いろいろな出会いがあって、100回目の路上ライブをつつがなく終えた。通りすがりの人々との一期一会的出会いとふれあいは、不思議なことに初回から全く変わっていない。

 100回演ってみて思ったが、路上ライブの真髄はこの「歌を介した、人との出会いの面白さ」にあり、CDの売上げだとか、メジャーな場への踏み台だとかは、そのずっとあとに付いてくるものではないか。
 出会いとふれあいを楽しむ気持ちを保ち続ける限り、路上ライブはまだまだ続けられる。