最初のライブ依頼にはいくつかのパターンがあり、最も多いのがボランティア登録しているNPOサイト経由のもの。こまめに記録しているブログを読んで、というパターンも含め、ネット経由での依頼が断トツに多い。
次いで多いのが、私のライブを目撃した人からの依頼。介護施設や路上ライブであったり、オーディション形式のライブであったり、その場は実にさまざま。人前で歌っている限り、どこにでも依頼の目は潜在的に光っている、と考えるべきだろう。
そのほか、自分でライブの企画書を持ち込んだり、知人の紹介というパターンもわずかだが、存在する。
今回は2番目に多い「私のライブを目撃した」というパターンだが、生のライブを聴いて気に入ってもらってのことなので、歌い手冥利につきるものだ。
施設は自宅から車で15分ほどの距離にあるが、ここ数日続く真冬日のせいか、道路は固く凍てついていて、車の流れは悪い。到着後に車を停める場所がなくて手間取ったりし、予定より少し遅れて14時4分から歌い始めた。
3度のアンコールを含めて、およそ45分で15曲を歌う。
「憧れのハワイ航路」「二輪草」「ソーラン節」「知床旅情」「二人は若い」「高校三年生」「さくらさくら」「お座敷小唄」「三択リクエスト〜小樽のひとよ」「三択リクエスト〜津軽海峡・冬景色」「月がとっても青いから」「リンゴの唄」「時代(アンコール&リクエスト)」「見上げてごらん夜の星を(アンコール&リクエスト)」「丘を越えて(セルフアンコール)」
10日前の系列施設と同じような内容で、と依頼されていたが、クリスマスはすでに終わっていて、年末が間近。切り口としては忘年会なので、それに沿って微調整を加えた。
会場となるホールには傾斜天井の明るい吹抜けがあり、やや狭いが系列施設と似た雰囲気である。しかし、聴き手の傾向はガラリ違っていて、全体的に大人しい。施設のテーマソングになっている「憧れのハワイ航路」をまず歌ったが、手拍子は全く起きない。
弾き語り演奏に不慣れな印象がしたので、2曲目の前にさり気なくMCで手拍子を誘導する。最近よくやるパターンだが、場を盛り上げるのに効果的な手法と分かったので、使わない手はない。
2曲目以降は場もじょじょにこなれてきて、いい雰囲気に。職員さんも積極的にライブに参加してくれた。歌詞指導は特にしなかったが、曲に合わせて一緒に歌う方も多数。
9曲目に、これまた最近よくやっている「三択リクエスト」を試みる。今回は前日に思いついた「冬の北海道」という切り口に沿った3曲を提示。「函館の女」には賛同が全くなく、ほとんど拍手に差のなかった「小樽のひとよ」「津軽海峡・冬景色」の2曲を歌った。
トントン歌いすすんで、「あと2曲で終わります」と告げると、若い女性職員さんが突然「アンコールを…」とつぶやく。ありがたいが、まだ終わっていないので、「終わってからお願いします」と返答。無事にラストを歌い終えたが、今度は場がシンと静まり返ってしまい、奇妙な沈黙が流れた。
まとめの言葉もなく、誰も動き出そうとしないので、「先ほどあちらからアンコールの声が…」と自ら申し出た。どうも施設全体がライブに慣れていない印象で、先の私の言葉を「アンコール拒否」と受け取った感じがしないでもない。
時間には何ら問題がなく、「やっていただけるならぜひに」とのこと。何を歌うべきか迷ったので、「何かご希望は?」と場に問いかけた。するとただちに、70代と思しき男性から「中島みゆきを何か」との信じがたい言葉が。
一瞬耳を疑った。長く歌っているが、介護施設で中島みゆきのリクエストは初。いろいろ歌えたが、「中島みゆきなら何でも」との声から、最も広く知られている「時代」に決着。
2曲もアンコールを歌うと普通はそれでお開きとなるが、まずいことに2曲とも叙情性の極めて強い曲。場内は静まり返ってしまい、感動で目頭を押さえる女性の姿も見える。このまま終わってしまうには、あまりに寂しい。
そこで短くて明るい曲を選択し、「本当のラスト」として自ら進んで歌わせていただいた。位置づけとしては完全な「セルフアンコール」だが、ライブに慣れていない場では、こんな終わり方もありだろう。
まるで降って湧いたような突発ライブだったが、ライブ慣れしていない聴き手を上手に導くいろいろな手法を試せて、また少し向上できた気がする。