偶然だが、施設は長男が通っていた高校の隣りにある。亡き父が数年間過ごした介護施設のそばでもあり、よく知っている場所だった。
1時間近くはかかりそうだったので、その覚悟で家を出る。途中までは順調だったが、もうすぐ到着という地点で、不意に渋滞が始まる。郊外の空いた道のはずが、大きな事故が起きて一車線通行になっていた。
予想外のトラブルだったが、ぎりぎり7分前に到着。ただちに機材をセットし、予定通り13時からスタートした。初訪問なので、このところ歌っている秋の定番メニューで臨む。およそ50分で15曲を歌った。
「高原列車は行く」「おかあさん」「炭坑節」「バラが咲いた」「幸せなら手をたたこう」「高校三年生」「荒城の月」「まつり」「星影のワルツ」「浪花節だよ人生は」「昔の名前で出ています」「時の流れに身をまかせ」「月がとっても青いから」「青い山脈」「函館の女(アンコール)」
行ってみて驚いたが、利用者が7人しかいない。途中から家族の方や職員も加わったが、それでも合計12人という小じんまりした場だった。
ごく普通の民家を改装した施設なので、少人数の家庭的な雰囲気を運営方針に打ち出しているのかもしれない。
ごく普通の民家を改装した施設なので、少人数の家庭的な雰囲気を運営方針に打ち出しているのかもしれない。
「なるべく長く、可能なら1時間ほど歌って欲しい」というのが先方の希望だった。しかし、そもそも少人数の場を盛り上げるのは難しい。嗜好が隔たってしまいがちだし、場のノリも概して悪い。その悪条件に加えて、「長いライブ時間」という難しい条件が重なった
前半は手探り的な進行にせざるを得ず、いつもなら一気に盛り上がるはずの「幸せなら手をたたこう」でも、手応えはいまひとつだった。
悪い条件は、しばしば重なるもの。狭い空間なので「音が大きすぎるようでしたら、おっしゃって下さい」と前置きして始めたが、いきなり最前列の男性利用者から、「うるさい」との指摘。
あわてて中断し、ボリュームを絞って再スタート。ようやくOKとなったが、充分なテストなしで始めたツケである。出鼻をくじかれた格好で、以降の歌唱がしばし消極的になった感は否めない。
場がようやくこなれてきたのは、6曲目の「高校三年生」あたりから。8曲目の「まつり」で長めのMCをとったが、出だしで「うるさい」と指摘した気難しそうな男性が、たまたまこの歌が大好きなことを知る。
「…さん、よかったね」と職員さんが声をかける。これをきっかけに、場の気分はじょじょに高揚していった。
この男性に限らず、全体的に演歌系の曲に対する反応がよいことを察知し、以降は予定になかった演歌系の曲を連発。ラスト近くでは三択方式のリクエストを募ったが、ここでも圧倒的に演歌系の曲が支持を集めた。
ラストの「青い山脈」では全員の手拍子が自然発生する。アンコールの「函館の女」は利用者からのリクエストだったが、やはり演歌系。
絶対数が少ないこともあって、場を盛り上げてくれる職員さんが少なく、悪条件が複数重なって、非常に難しい進行となったが、どうにか経験値で帳尻は合わせた。ライブ時間の要望にも応えて、施設側にも喜んでもらえた。