「仕事は人につく」という持論があるが、ボランティア活動や趣味活動でも同じ現象がしばしば起きる。この世は合理性だけで進むわけでは決してなく、人と人とのつながりが大きく作用しているのだ。人との関わりを軽んじてはならない。
偶然だが、場所は3日前に歌ったデイサービスから数百メートルの距離。この地区では、7月にも別のデイサービスで歌っている。成熟した地域なので古い家々が多く、つまりは利用者となる高齢者が多い、ということなのだろう。
15時10分前に会場に到着。実は3日前のライブ終了後に立ち寄って、会場の下調査は済ませてある。素早く設営し、予定通り15時ぴったりから歌い始めた。
担当のAさんとは事前に入念な打合せをやった。構成等は基本的にお任せいただいたが、ラストに「上を向いて歩こう」を全員でシングアウトしたいという希望がまずあった。
利用者は全体的にカラオケが好きということで、事前に送られてきたFAXには、好みの曲が演歌を中心に27曲列記されており、その他にAさんが個人的に聴きたい曲として、昭和歌謡を中心に10曲の記載があった。
選曲には相当悩んだが、これら37曲を無視することは出来ず、ある種の「リクエスト」と考え、利用者好みの演歌を中心に8曲をプログラムに組み込んだ。
およそ1時間で、アンコールを含めて17曲を歌う。(※はリクエスト)
「高原列車は行く」「ソーラン節※」「おかあさん」「瀬戸の花嫁※」「時の流れに身をまかせ※」「二人は若い」「バラが咲いた」「浪花節だよ人生は※」「さざんかの宿※」「星影のワルツ」「無言坂(初披露)」「月がとっても青いから」「酒よ※」「函館の女※」「上を向いて歩こう※」
〜アンコール「空港※」「神田川※(職員さんのリクエスト)」
聴き手は利用者が12名、職員が3名。男女比は2:1ほどで、女性が多い。こじんまりとした施設だが、他のデイサービスに比べて介護度の高い方が多い印象がした。そのせいか、全体的に大人しい。やんやの喝采やかけ声は皆無で、歌い手としては難しい場である。
こうした場には唱歌を含めた叙情性の強い曲が向いているのだが、担当のAさんと充分に打合せをしたすえの構成だったので、途中での路線変更は一切しなかった。
幸いに喉の調子は非常によく、打開策として高音部の聞かせどころのある曲は、特に力をこめて引っ張った。そうするうち、場の反応もじょじょによくなってくる。
この手法を駆使した「さざんかの宿」や「月がとっても青いから」以降のラスト4曲には、熱い手応えがあった。普段はあまりやらない手法だが、場を自分のペースに持ってくるためには、時に「力技」も必要になる。
ちょっと困ったのは、開始25分過ぎくらいから、トイレで席を立つ方が続出したこと。開始直前までカラオケ大会が実施されており、ほとんど休憩なしで私のライブへとなだれこんだので、高齢者にとっては辛い状況だったかもしれない。
車椅子利用の方も多く、トイレには職員さんの介添えが必須。場に職員さんがほとんどいない時間帯もあったりで、集中力を保つには難しい状況が続いた。
さらには、ライブ時間が長すぎたこと。デイサービスは他の介護施設に比べて、長い演奏時間を求められることが多い。定時まで時間をフルに使う必要があるというシステムが関係しているのかもしれない。
歌い手である私は、過去に休憩なしの1時間半ライブを経験しており、長い時間は苦にしない。しかし、介護度が高めの高齢者にとって、休憩なしの1時間近いライブは相当厳しいものと思われる。
この時間をどうしても費やすなら、途中で全く別のゲームを挟むとか、完全な休憩タイムを設けるなどの工夫が必要となりそうだ。
課題は残ったが、高齢者相手でも力技が通用すると分かったのは、収穫だったかもしれない。