打診があったときは、ちょっと躊躇した。得意な昭和歌謡はともかく、全てを聴き手からのリクエストで進行するのは、まるで未知の世界である。
しかし、特に今年になってからのチカチカパフォーマンスでは、一部の突発リクエストにも、臨機応変に対応している。CDとの併用なら、何とかやれるのでは…。半分は好奇心もあって、結局お受けすることに。
30分早く会場に着くと、ステージ周辺が慌ただしい。聞けば、音響関連の電源ブレーカーが落ちてしまい、PAが使用不能だという。直前の出番だった大学のアカペラグループが、困り果てた様子。10分経っても復旧せず、業を煮やしてノーマイクで歌い始めた。
1曲目を終えたところで、別系統から延長ケーブルで電源を供給し、ようやく復旧。ここで15分ほど時間が押してしまった。
その後消防署の防災クイズがあり、予定より遅れて13時45分から私の出番となる。この日の機材は、月末の別の地区センター・シルバー大学講義のために整えた自前のシステムを、初めて試すつもりだった。
マイクスタンド、電子譜面、マイク、ミキサー、モニタースピーカー、関連ケーブル類一式は、自宅でチェック済みのものを持参。全機材が乾電池駆動で、機器の各種数値は事前に設定を終えている。ミキサーからのアウト端子1本を会場に設置のマイクケーブルにつなぎ、設置はあっという間に終わった。
事前のリハは一切やっていないので、ミキサーの主音量だけはその場で調整し、準備完了である。
いきなりリクエストを募っても、すぐには出ないだろうとの予想から、「最初だけ知り合いに頼んでおきましょうか?」との打診もあったが、慎んでご辞退し、まずは数曲を生歌で歌ってみて、そこからMCでリクエストを引き出す手法をとった。
まずはニギヤカ系の「どうにもとまらない」を、続けて若い層にも人気のある「赤いスイートピー」を歌う。場内はステージ後方の壁際にたくさんの食べ物系バザーが出店されていて、かなりのにぎわい。生ビールも売られていて、ステージから遠い場所では、歌よりも飲食に夢中、といった印象だった。
それでも2曲歌った時点でリクエストが飛び出す。何とそれが「異邦人」で、あいにく即座に取り出せるファイルには入れてなく、検索に時間がかかりそうだった。CDリストにあることは分かっていたので、すぐにかけてもらった。
係員が会場に入り、リクエストをくれた方にインタビューなどするうち、同じテーブルの女性から「松山千春ならなんでも」というリクエストが続いて出た。こちらは予想の範ちゅうで、ただちに「季節の中で」を歌って対応。
その後、リクエストが途切れたので、「カサブランカ・ダンディ」でつなぐ。最初は関心の薄かった場も、少しずつ反応がよくなってきた。
すると、いきなり2曲まとめてリクエストが出た。「ルビーの指環」と「いい日旅立ち」がそれで、あいにく「ルビーの指環」は一度電子譜面に入力したものの、ラストの転調部が難解すぎて、断念したいわくつきの曲。
まず「ルビーの指環」をCDで対応してもらい、流れている時間に「いい日旅立ち」の譜面を検索。終わるとただちに歌いつないだ。
歌っていて気づいたが、CDよりも生歌のほうが、聴き手の反応が抜群にいい。プロといえど、やはりCDはCDで、多少の難はあってもライブの魅力は捨て難い、と手前味噌に考えよう。
歌い終えると、「大空と大地の中で」をぜひに、との声あり。てっきり最初と同じ方かと思いきや、あとで聞くと別の方だったらしい。譜面は偶然「いい日旅立ち」と同じファイル内にあり、難なくたどり着く。
その後休みなく「秋桜~コスモス」のリクエストが入る。2年ほど前にディサービスでリクエストを事前にもらい、一度だけ歌ったことがある。無難に対応。
当初は1時間の予定だったが、終了時刻は予定通り15時30分と聞いていた。残り時間が少なくなり、続くリクエストもないので、時間調整として「ブルーライト・ヨコハマ」を歌う。ちょうど時間となったが、次の催しの準備が整っていない。「もう1曲お願いします!」との館長さんの要望により、「青春時代」を歌う。
この日は全体の進行がアバウトなこともあり、全曲をフルコーラス歌った。ラストになったこの「青春時代」が一番の盛り上がりで、会場から期せずして手拍子が湧いたほど。
結果として45分間を使い、リクエストが6曲。私の生歌で4曲、CD対応が2曲ということになった。要所のつなぎで別に5曲歌ったので、全体では11曲。うち、私の生歌としては9曲。虚をつかれた印象の「異邦人」も、予め昭和歌謡ファイルに入れておけば、瞬時に対応できたと反省。
しかし、初めての冒険的試みとしては、無難に場をまとめたと思う。今後の課題としては、譜面の検索時間を早める工夫をすること。検索時間は場の雰囲気として30秒が限度で、売れた曲はジャンルにこだわらず、同じファイルに入れておくのが無難だ。
初めて実戦で試した「自力モニターシステム」は思惑通り、何ら問題なく使えた。マイクとギターのバランスやモニタの調整が、全て手元で自分でやれるのが最大の魅力。今後この種の場では、全てこのシステムで臨みたい。
帰宅後、「ルビーの指環」を再度練習。ラストの転調部は原曲の半音ではなく、1音上げてやると何とか演れることが分かった。売れた曲は好き嫌いにこだわらず、レパートリーに加えておくべき。これまたこの日の教訓。