2019年12月19日木曜日

予期せぬ「当て振り」

 ネット経由で依頼のあった、知的障がい者支援施設の忘年会で歌った。会場は市内中島公園近くのホテル宴会場。
 施設そのものは市内南方の山間部にあり、これまでは施設内でXmas会をやっていた。今年は初の試みとして都心のホテルを会場にし、余興にはゲストを迎えることになったという。

 実施前から電話で何度かのやり取りがあり、10日前には吹雪をついて施設を訪れ、担当者と直接面談。歌う曲は入居者の嗜好をふまえて、その場で全て決めるという力の入れようだった。打合せ後に施設内を案内され、何人かの入居者と挨拶も交わす。


 実施日の数日前から当日にかけても、細かい打合せの電話が何度かあった。これほど入念な調整は記憶にない。平常心でいたつもりだが、(失敗は許されない…)と、じょじょにプレッシャーが高まる自分を感じた。
 当初は開会宣言後に歌う手はずになっていたが、直前になって、軽食のオヤツを食べたのちに歌うことに予定が変わる。食べてから聴いてもらうほうがリスクは少なく、この変更は歓迎だった。
 当日は積雪ゼロの穏やかな日和。13時半ころに家を出て、14時過ぎに難なく到着する。
 4階の会場に入ると、入居者もまた予定より早く着いてしまい、開演を待ち望んでいる状態という。14時半の開始が、前倒しして14時20分と早まった。


 会場が広いという事前の情報からPAは2台を準備し、開始前に手早くセットを終えた。
 パーテーションに区切られた位置で控えていると、14時50分くらいに進行の方に呼ばれる。シールドをつなぎ、PAのスイッチを入れてただちに開始。40分弱で11曲を歌った。
(4曲目「瀬戸の花嫁」以降は全てリクエスト)

「ジングルベル」「おかあさん(森昌子)」「お座敷小唄」「瀬戸の花嫁」「北国の春」「高校三年生」「上を向いて歩こう」「365歩のマーチ」「見上げてごらん夜の星を」「まつり」「大空と大地の中で」
 マイクテストやリハーサルの類いは一切なく、文字通りの一発勝負だったが、会場の広さと同時に天井が非常に高く、前半数曲はPAのボリュームやリバーブの調整を強いられた。
 連続ライブのあと、中3日でのライブとあって喉の調子はパッとしない。前回に比べて低音は安定し、ギターの押さえも改善されたが、今度は高音が安定せず、ピーク時に声が切れそうになって危うくこらえる。


 聴き手は入居者40名強、職員30名、保護者を加えて100名弱とかなり多い。食事はフルーツ系のオヤツと飲み物だけで、アルコール類は一切ない。

 自分の不調もあってか、会場の反応はいまひとつで、テーブルによっては歌よりもおしゃべりや食事に興ずる姿もあったりし、難しい進行を余儀なくされた。
 前半は守りの歌唱にならざるを得ず、ようやく落ち着き始めたのは、5曲目あたりから。実は4曲目以降は全て事前の打合せによる施設側のリクエストだった。入居者の嗜好を反映させたもので、じょじょに聴いてくれる人が増えてきた。
 後半の「365歩のマーチ」を歌い始めると、突然入居者の一人(女性)がマイク前に進み出てきて、会場にむかってダンスを始めた。すかさず職員さんのサポートが入る。アップテンポの曲なので、ダンスは合わせやすい。
 一人が踊り始めると、続いて前に出る人が出始めた。保護者の方々の表情がゆるみ、場が一気に盛り上がる。


 続く「見上げてごらん夜の星を」でも同じように歌詞に合わせて踊る人が続出。いわゆる「当て振り」と言われるジャンルの舞踊だった。もしかすると、施設でも娯楽の一環で踊っているのかもしれない。
 突発的な当て振りはその後の「まつり」でも続き、場内の熱気はピークに達する。咄嗟の判断で、歌詞や間奏は一切省略せずにフルコーラス歌った。

 ラストの「大空と大地の中で」を会場の手拍子で締めくくる。聴き手の後押しもあって、この頃には高音の不安も解消していた。
 終了後には1年を写真で振り返るスライドショーが続いていたが、私は途中で退出。一時はどうなることかと思った展開も、何とかまとめられて安堵の胸をなでおろした。