事前に情報収集すると、歴史は浅いが市内5ヶ所で事業を運営している。どの施設も高級感ただよう造りで、入居者の介護度は低い。
過去に似た形態の施設で洋楽を多く歌うよう求められたことがあり、ライブ構成に迷って事前に確認したが、一般的な内容で構わないとの返答だった。
開始は14時でライブ時間は40分と長め。初めての施設なので早めの13時5分前に家を出る。路面に雪は全くなく、乾いている。40分で先方に着き、会場となる食堂ですぐに設営を始めた。
10分で終了し、時間まで控室で待つ。やや遅れて14時3分くらいから開始。予期せぬリクエストやアンコールを含め、およそ45分で14曲を歌った。(※はリクエスト)
「ジングルベル」「おかあさん(森昌子)」「お座敷小唄」「バラが咲いた」「幸せなら手をたたこう」「高校三年生」「故郷」「君恋し」「神田川※」「星影のワルツ」「いい日旅立ち」「サクラ咲く(オリジナル)※」「東京ラプソディ」「月がとっても青いから(アンコール)」
聴き手は女性を中心に20名弱。男性は2名だけで、車椅子の人は皆無。会場がそう広くなく、リスクを避けてPAのボリュームはかなり絞った。
余興ボランティアの受入れが少ないらしく、場の反応は硬い。担当のYさんは最初の紹介だけで事務室へと消え、ヘルパーに相当する職員さんはいない。会場は私と入居者だけとなり、歌い手一人で場をまとめる必要に迫られた。
一曲ごとの拍手は熱いが、曲間の手拍子や歓声等は皆無。MCを多めにして引っ張る苦心の進行だった。
4曲目の「バラが咲いた」で共に歌う声がポツポツ耳に届き始め、参加型の5曲目「幸せなら手をたたこう」でようやく場がなごみ始める。困ったときには、やはりこの曲だ。
6曲目の「高校三年生」を覚えた経緯を説明するなかで、自分の弾き語り経歴についてふれたら、20代で盛んに歌った「神田川」をぜひ聴きたいという声が複数あがった。予定にはなかったが、希望に沿って9曲目に歌うと、これが非常に受けて場を完全につかんだ。
「神田川」は先月末のデイサービスでもリクエストがあって歌い、強い反応があった。介護施設でも歌える数少ないフォークである。
その後、「星影のワルツ」と「いい日旅立ち」では二択リクエストを仕掛け、聴き手の拍手でどちらを歌うか決める趣向をとったが、拍手が拮抗。最前列の男性から「これは両方だね」との声があがり、結局両方歌うことになった。
残り時間が少なくなり、場に再度リクエストを募ると、「オリジナルは持っていらっしゃいます?」との信じ難い声があがる。「ハイ、あります」と応じると、ぜひ聴きたいという。介護施設で利用者からの求めでオリジナルを歌ったことは一度もなく、これは画期的なことだった。
考える時間がなく、咄嗟の判断で「サクラ咲く」を歌うことにし、曲名と出来た経緯を告げると、なぜか会場がざわついた。
久しぶりに歌ったが、これが自分でもなかなかの出来。終わると盛大な拍手が湧いて、「美しいテノールですね」「この施設の名前にも《桜》が入ってるんですよ」「春には外の街路樹に花が咲きます。そのときにぜひまた聴きたい」との声が。
全く気づかなかったが、確かに施設名の末尾に桜の文字があった。何気なく選んだが、こんな偶然もあるのだ。
ラストの「東京ラプソディ」では自然発生の手拍子もでて、尻上がりに乗ったライブをにぎやかに締めくくることができた。
全て終わったあと、担当のYさんが事務室から登場。仕事をしながら歌は聴いていたそうで、「アンコールはないのですか?」と問う。場の拍手が続き、定番のアンコール曲でお応えした。
その後も場に余韻が残り、聴き手はなかなか去ろうとしない。撤収作業をしながら雑談したが、やはり神田川の評価が高かった。
「洋楽は聴かれますか?たとえば《サン・トワ・マミー》とか《ケ・セラセラ》とか…」と問うと、そんな曲が歌えるんですか、それはぜひ聴きたかったとの声が多数。当初の予想はやはり当たっていた。もし次回があった場合は、さっそく反映させたい。
終了後、来年2月に系列の4施設で順に毎週歌ってもらえないか、との打診がYさんからある。具体的な日程がその場で決まった。構成は任せてもらえたので、今回のメニューにフォークや洋楽の要素を加味し、修正して臨みたい。
思いがけないことが続いたが、来年もまた忙しくなりそうだ。