2019年5月9日木曜日

何を受け継ぐか

 1年ぶりに墓参りに行った。かっては春に加え、お盆や冬ごもり前にもお参りに行っていたが、容態が悪化する母の対応に日々追われ、昨秋には台風や地震被害などもあって、つい足が遠のいた。
 先祖を弔うのも大事だが、生きている者への速やかな対応が最優先である。

 札幌南端にある霊園は北端にある我が家から33キロあって、車で1時間半近くかかる。時間的な負担が大きく、今回はもっと効率的なルートがないか、グーグルマップを駆使して入念に調べた。
 すると環状通から豊平区役所を左折して澄川通を経由し、真駒内から滝野へと抜けるルートが最短であることを知る。距離自体はあまり変わらないが、山道が中心で信号がなく、交通量が少ない。


 13時10分に家を出て、まず途中のトライアルで花や供え菓子、さらには定番食料品を買う。ここで20分近くロスしたが、その後の走りは順調。14時30分頃には霊園に着いた。
 正味の所要時間は1時間で、普段より20〜30分も短縮できた。今後はこのルートを走ることに決めた。
 GW直後とあって、霊園の人影は少ない。同じ区域には他に2組の墓参者だけだった。
 妻と手分けして墓を掃除して花や菓子を供える。背後の墓にカラスが音もなく止まって、じっと菓子をねらっていたが、全く無視して菓子を手元から離さず、すばやくお参りを済ませてただちに撤収。
 以前に目を離した隙に供え菓子が1個消えたことがあり、ずっと不思議だったが、どうやら犯人はカラスだったようだ。

 帰路は同じルートを戻って真駒内地区に入り、六花亭真駒内店に寄って珈琲とピザを食べる。父の命日は2日前だったが、ともかくも済ませた。


 墓参りのたびに考えるが、私や息子が生きているうちは墓の管理を何とか続けられそうだが、その次の代となると現時点では孫娘一人しかおらず、いささか心もとない。
 Y染色体を持つ男系のみを墓守り(祭祀継承者)の条件と考えるなら、このままでは無縁墓となる可能性が高い。

 そうならないよう、すでに長男には墓じまいの方法を具体的に伝えてある。現状のままだと、おそらく50〜60年後くらいに、孫娘が取り仕切ってその手配をすることになるだろう。
 具体的には、霊園内にある合同墓地に骨を改葬し、墓石を撤去し、墓所使用権の返上手続きをすること。大半は霊園側が代行してくれるので、あとはお金の問題だけだ。


 11年前に父が亡くなった際、銀行口座解約のために「改製原戸籍」なるものを取り寄せて父のルーツを調べたことがある。それによれば、父方祖父は秋田県山本郡能代港町(現在の能代市)の出身で、大正2年3月に開拓農民として来道している。
 次男だった父方祖父は、最初の夫に先立たれた祖母と入夫婚姻(女戸主である妻の戸籍に入り、家督を継ぐ)している。婚姻前の旧姓は戸松で、能代地区では由緒ある古い家系と聞いた。

 祖父の菊地家を初代とすれば、私が3代目となり、私の息子が4代目。男系のみが持つY染色体は戸松家から受け継いでいるが、それが何代目にあたるかは分からないし、そもそも戸籍上はあくまで菊地家。それも5代目の孫娘で途切れるかもしれない。
 人がこの世で何を受け継ぎ、そして何を残していくのか、正直よく分からない。問題となるのは家柄やご先祖様ではなく、生きている個々人が持つアイデンティティではないのか。
 さまざまな事情で墓や家が消えてゆくのもやむを得ないこと。人生の本質は夢泡沫であり、確かないまをせいぜい生きることだ。