風邪に起因する体調不良から、しばし活動を自粛していたが、ようやく春らしい暖かな陽気となり、そろそろ動き出すべき時期到来である。
開始は14時だったが、初めて訪れる施設なので20分前には先方に着く。聴き手は40名ほどで、デイサービスとしては多いほうだ。食堂の窓際をステージに想定し、こちらの要望で椅子を片側に整然と並べてもらった。
普段通りの椅子やテーブルの配置で歌えば施設側の負担は少ないが、たとえボランティア演奏といえ、ライブはある種の非日常であることに変わりはない。聴き手と歌い手に程よい緊張感を与える意味でも、場としての体裁は必要であろう。
準備が整ったので、予定を5分早めて13時55分から始めた。ちょうど1時間で計19曲を歌う。
《セレクトタイム》
「北国の春」「おかあさん」「宗谷岬」「真室川音頭」「蘇州夜曲」「幸せなら手をたたこう」「高校三年生」「みかんの花咲く丘」「荒城の月」「故郷」「釜山港へ帰れ」「夜霧よ今夜も有難う」「時の流れに身をまかせ」「いい日旅立ち」
《リクエストタイム》
「北酒場」「ブルーシャトー」「五番街のマリーへ」「さくら(直太朗)」「また逢う日まで(三択)」
系列施設では多数歌っているが、場としては初めてなのでリスクを避け、ごくオーソドックスな春メニューで臨んだ。
出だしの4曲はストローク系の曲でまとめたが、場の反応はまずまず。喉の調整もおおむねうまく運んで、多少の声がれはあったが、普段通りのキーで歌えた。
5曲目で初めてアルペジオの曲を歌ったが、タイトル紹介で歓声が湧く。その後の聴き手参加型の曲の反応も悪くなかった。中ほどに入れた唱歌メドレーは、多くの方が一緒に歌ってくれた。場の傾向としては、やや傾聴型だったかもしれない。
「夜霧よ今夜も有難う」を歌い終えた時点で、時計は14時35分あたり。すでに40分が経過している。後半にリクエストを募る旨をここで告げたら、最前列に座っていた男性から、早くもリクエストを書いた紙が差し出される。
「北酒場」「人生の並木路」とあり、レパートリーにあった「北酒場」をまず歌う。その後、場に再度リクエストを募ったが、女性が多いこともあってか、ただちに声はあがらない。
そこで傍らに準備してあったリクエスト用紙を取り出し、私自身が声をかけて聴き手に直接手渡すことにした。場がやや大人しいときにしばしば試みるが、聴き手との距離を近づける効果がある。
ここから場の反応が俄然よくなり、リクエストが次々と飛び出す。懐メロや演歌は皆無で、POP系の歌が続くことに驚いた。リクエストが止まらない雰囲気になったので、進行の方に適当なところで打ち切ってもらった。
ラストは「青い山脈」「リンゴの唄」「また逢う日まで」の三択リクエストを仕掛けたが、予想通りPOP系の「また逢う日まで」が圧倒的な支持を得た。
終了後、「いい歌でした」「68歳にしては声が若い」などと声をかけてくれた利用者が複数いたので、出来としては悪くなかったと思う。自己評価としては、細部の表現にまだ不満が残ったが、これはあくまで歌い手自身のこだわりの部分である。
施設長さんが学生時代からバンドを組んでいて、ギターを担当していたと聞かされる。あの竹原ピストルと大学の同窓で、同じステージを何度も踏んだという。いまもライブをこなすそうで、弾き語りには理解の深い方に恵まれたようだ。
ライブ中にたまたま系列別施設から電話があり、電話越しに歌を耳にした先方が、「我が施設でもぜひに」との話になり、来月歌わせてもらうことになった。
春の訪れと共に、長い低迷からようやく抜け出すきっかけをつかめたかもしれない。