2018年2月25日日曜日

声が出ない

 冬は車で1時間はかかる遠方のデイサービスで歌った。数年前にネット経由で依頼され、一時は年3〜4回という頻度で歌わせていただいた。
 ところが、昨年5月を最後に、ぷつりと依頼が途切れた。担当者がやめたり別施設に移動したりすると、それを機に縁が切れることがよくある。

 今回久しぶりに依頼があったのは、これまでずっと担当だったTさんとは別の方。ライブ中もTさんの姿は見えなかったので、何らかの理由でいなくなった可能性が高い。(あえて確かめなかった)
 数日前から続く風邪の症状に加え、昨夜から左耳の耳鳴りがひどく、聞こえが悪くなった。風邪やストレスと関係があるのかもしれない。指圧を繰り返してどうにか症状を緩和する。
 加えて、今朝起きると頭がボーとして身体が少しダルい。(もしや…)と思って体温を測ると、36.8度という微妙な数字。事前の練習で声はまずまず出たので、スケジュールに穴を開けてはならないと、そのまま出かけた。

 用心して早めに家を出たが、路面はすっかり乾いていて、車の流れは順調。夏と変わりない45分で先方に着く。


 耳と喉の両方に不安があるので、これまでこの施設では一度もやったことのない、PA2台方式で臨むことにする。
 聴き手は40名ほど。予定ぴったりの15時から始め、結果として50分強で18曲を歌う。(※はリクエスト)

「北国の春」「白い想い出」「なごり雪」「蘇州夜曲」「愛人」「仰げば尊し」「サン・トワ・マミー」「宗右衛門町ブルース」「春一番(初披露)」
「憧れのハワイ航路」「二輪草」「お富さん」「故郷」「みかんの花咲く丘」「リンゴの唄」「青い山脈」「夢一夜※」「愛燦燦※」
 1曲目からいきなり(まずい…)と直感した。自宅リハでは問題なかったはずの出だし部分が、きれいに出ない。昨日からの声がれ症状は残っていたが、なぜか本番になって高音も出なくなっている。
 急きょキーを半音(1カポ)下げて歌うことにしたが、問題はカポなしで普段歌っている曲。咄嗟の転調はリスクが高く、やむなくそのまま歌ったが、「なごり雪」はどうにか乗り切ったものの、「サン・トワ・マミー」でごまかしが効かなくなった。
「宗右衛門町ブルース」はどうしても高音が出ず、1番で打ち切ってしまうという失態。


 いつも1時間近いライブを求められるが、この日はどう考えても無理。しかし、「喉の調子が悪いので、30分でやめます」とは言い出しにくい雰囲気だった。そこで9曲を歌った時点で、大幅な路線変更を決意する。

 歌い手がアップアップで余裕のない状態なので、聴き手の反応も極度に弱い。当然といえば当然だが、その中で唯一手応えのよかったのが「仰げば尊し」。これをヒントに、音域が狭く、キーを2つ下げても歌える唱歌系懐メロ系の曲を急きょ見繕い、時間の辻褄だけは合わせようと考えた。
 キーは下げたが、低音は比較的安定していて、女性にも歌いやすい。高音部の声がれが解消したこともあって、「憧れのハワイ航路」からの後半は、場の反応が俄然よくなる。
 開始から40分が過ぎ、最後の曲になって初めて、「喉の不調により、お聞き苦しい部分があったことをお詫びします」と陳謝。懐メロの反応もよく、どうにか場を収めたと安堵して撤収しようとしたら、施設長さんがやってきて、リクエストが出ているのでぜひに、と言う。
 帳尻だけは強引に合わせたが、この日はとても人に聴かせる歌ではなく、固辞しようとしたが、1番だけでも…と譲らない。やむなく2曲を1音下げてどうにか歌い切る。

 終了後、なぜか場は予想外に盛り上がっていて、「懐かしい曲を久しぶりに聴けてよかった」と、わざわざ私に伝えに来る利用者の方さえいた。
 喉が絶好調と自分で思っていても、まるで手応えのない場があり、反対に最悪のコンディションで歌っても、それなりの評価がもらえることもある。ライブの七不思議のひとつだろうか。