2017年5月27日土曜日

絶体絶命ライブ

 車で30分の近郊都市で6年ぶりのカフェライブをやった。別のライブで知り合ったR子さんの紹介で、1時間半のリクエスト型ソロライブである。
 初めての場だったが、ライブのシステム自体はこのところ介護施設系の場で多く手がけているもので、不安はなかった。問題は数日前から発症していた風邪気味の体調である。
 軽い咳から始まり、鼻水や声がれなど。熱はないが、ハチミツ大根や風邪薬、栄養ドリンクなどを総動員してもなかなか回復せず、前日の練習では最も高いキーが出にくいという非常事態だった。

 集客はお店側でやってくれて、私は単に歌うだけだった。だが、肝心の歌がこの状態では大問題である。
 一時は順延も考えたが、初めての場でいきなり順延はどうしても避けたかった。当日は早めに起きて喉の調整に励む。
 いろいろテストしてみると、低音は普段よりも響く感じだが、やはり高音がキツい。緊急対策として、前半に歌う数曲のキーを半音下げることにした。

 お店のキャパが20名ほどなので、当初は小型のPAを使うつもりでいたが、声量に不安があり、いつも通りローランドのCM-30を使うことにする。
 車を運転する都合で、当日は風邪薬が飲めない。出発直前に栄養ドリンクを飲んで凌ぐ。小瓶に入れたハチミツ大根も念のため持参した。


 外はあいにくの雨だった。まさに「泣きっ面に蜂」状態だったが、これも何かの試練と考え直す。余裕をみて開演45分前にお店に着いた。
 ママさんとスタッフの女性が準備の真っ最中で、歌う場所や電源の位置、CD販売法などを再確認する。ステージ位置は全ての席が見渡せるトイレ横の角に決定。相手に無用な心配をかけても仕方がないので、風邪のことは一切言わなかった。
 10分くらいで機材のセットや音出しテストは終わったが、数日前に電話で打診のあったプロジェクターによる歌詞投影をやってみることになった。
 スクリーン専用スタンドをまず立ててみたが、場所が狭くて歌う邪魔になる。マイク左横の壁にスクリーンを直接吊るすのが最適で、壁に設置してある照明金具にクリップをしばり、そこにスクリーンを止めてみるとうまくいった。
 プロジェクターの位置や角度を調整し、スクリーン上の照明は照度を絞ってもらう。以前に介護施設で使ったときより、はるかに見やすくなった。

 そうこうするうち、お客さんが次々と入ってきた。雨は降り止まないが、逆に運動会や農作業などが中止となり、歌でも聴きに行くか…、という方がいたのかもしれない。全く何が幸いするか分からない。


 予定ぴったりの14時に開始。まずはママさんの簡単な挨拶があり、すぐに歌い始めた。聴き手はスタッフ3名を含めると21名。ほぼ満席である。
 第1ステージでは、およそ40分で10曲を歌った。(※はリクエスト)

「ジョニィへの伝言」「青葉城恋唄」「サン・トワ・マミー」「古城」「パープルタウン」「ケ・セラ・セラ」「竹田の子守唄※」「糸※」「長い夜※」「くちなしの花※」

 出掛けに飲んだ栄養ドリンクが効いたのか、はたまた開始直前に飲んだハチミツ大根がよかったのか、咳の症状は全く表れず、声もまずまず出た。しかし、油断せずに「青葉城恋唄」「古城」ではキーを半音下げ、「ケ・セラ・セラ」では後半の転調を避けた。
 お店でのライブは10年ぶり以上とかで、前半の聴き手の反応はやや硬く、リクエストも遠慮がち。しかし、終了後の拍手は熱く、「古城」「くちなしの花」では曲間の拍手もいただく。手応えは決して悪くなかった。
 これといったミスもなく、前半を終える。咳の出る気配はなく、何とか乗り切れそうな感じがしてきた。
 14時45分から第2ステージ開始。およそ45分で13曲を歌った。
(全てリクエスト)

「恋の町札幌」「つぐない」「オー・ソレ・ミオ」「いちご白書をもう一度」「夜霧よ今夜も有難う」「時の流れに身をまかせ」「サン・トワ・マミー」「人生いろいろ」「酒と泪と男と女」「高校三年生」「まつり」「青春時代」「また逢う日まで」

 後半に入ると、場はじょじょに乗ってきた。かけ声や手拍子が自然に出るようになり、「いい声だね〜」という声も耳に届く。そんな聴き手にあと押しされるように、喉の調子もじょじょに回復してきて、大半の曲をいつも通りのキーで歌えた。
 終盤の「高校三年生」から一緒に歌う人が増えだし、場は歌声喫茶ふうの雰囲気になる。最後はラストに相応しい曲をと、ママさんからのリクエストで締めた。
 終了後、見知らぬいろいろな方に声をかけていただく。オリジナルCDも5枚売れた。「お捻り」をそっと手渡してくれた方までいた。
「声が満足に出ない」という絶体絶命のピンチだったが、ぎりぎりまで粘って調整し、何とか先方に迷惑をかけずに乗り切れた。自分にこんな力が残っていたことに、自分自身が驚いた。

 夕方、ママさんから感謝の電話と共に、次回のライブ予約依頼があった。終わったその日に次回の予約とは非常に珍しいが、ありがたくお受けした。苦境を乗り越えて、新しい道が拓けたかもしれない。