最初にお会いしたのがさらに別の施設で、2006年春のこと。足掛け7年にも及ぶ長いおつき合いである。仕事とは無縁の関係だが、私の個人的なイベントである還暦コンサートにも来てくださった。こうなると利害を超えた人間そのものの縁といっていい。
施設そのものに伺うのは初めてなので、プログラムは隔たりがないよう、無難な構成で準備した。とはいえ、同じ系列の施設なので、ある程度の傾向は確かに存在する。
14時10分からちょっとした施設側のイベントがあり、14時20分からライブ開始。35分で以下の11曲を歌った。
「ウインター・ワンダーランド」「サン・トワ・マミー」「瀬戸の花嫁」「宗谷岬」「ラ・ノビア」「バラが咲いた」「月がとっても青いから」「愛燦々」「高校三年生」「ここに幸あり」「東京ラプソディ」
実績ある日本の叙情系の歌をベースに、一部外国の曲をまじえるという基本構成。ストリートライブのような冒険は避けた。
聴き手は60名ほどで、知っている顔はもちろんない。しかし、反応は非常によく、拍手も強くて暖かかった。特に要求はしなかったが、多くの曲を一緒に口ずさんでくれ、自然発生的手拍子もいただいた。「いい声だね~」の声もあちこちから耳に届いた。
演歌系の歌は結果として皆無だったが、リクエストを募っても最近の有料老人ホームではこうした傾向が強い。同じ理由から、明確な唱歌も歌っていない。求められた場合は別にし、当面はこの路線でいきたい。
終了後はただちにオヤツタイムに移行したので、入居者からの直接の言葉はなかったが、長いおつき合いの施設長さんからは、「一段と磨きがかかりましたね」「声が加齢と共になぜか向上してます」「ステージのさばきに余裕がある」などと、ねぎらいをいただく。
聴き手が常に流れてゆくストリートと違い、固定されている場での有難みをしみじみ感じた。毎回がシビアな場ばかりだと息をつく間もない印象だが、時折こうした用意された場で歌うのも、悪くはない気分である。
数日前からの練習で気づいたことだが、交流電源のローランドCM-30をPAに使う場合、買いたてヤマハのエレアコも遜色ない音を出してくれることが分かった。音の強さの面では、むしろヤマハに分があるように感じる。
この日はどのギターを使うべきか直前まで迷ったが、初めての施設なので選曲と同様にリスクを避け、使い慣れたオベーションのギターを選択した。音の柔らかさではこちらに分がある。