当時は気の利いた専用グッズなど皆無の時代で、ガラスにロウソクのススをつけたり、半透明の下敷きを代用したもの。あいにく小さなガラスがなく、デザインに使ったカラーシートをプラスチック板に何枚か重ねて貼ったりもしてみたが、まるで役に立たない。
引出しを漁るうち、古い下敷きを発見。以前にNHKの番組モニターをしていた際、カーボン複写式のレポート用にもらったもので、試してみるといい具合に光を遮断できる。目覚ましをセットしてひとまず眠りについた。
3時間ほど寝たところで、目覚めてしまう。まだ明け方の6時過ぎで、さすがに早すぎる。しかし、勤めのある妻がすでに起きていたので、見つけた下敷きのことを教えようと、いったん起きた。
一度もテストしていないので、2階東側の窓から外を見ると、うまい具合に雲間から太陽が見えている。試しにのぞいてみると、バッチリ見えた。しかも、すでに右上が一部欠け始めているではないか。急いで妻を呼び、交互に観察。
「下敷きなどの間に合わせ品は目によくない」とネットで盛んに警告されているので、観察時間はほんの数秒にとどめた。
その後、断続的に観察しながら、写した画像を逐次ツイッターにアップ。同時刻に起きて観察している人は多数いて、奇妙な一体感にとらわれる。眠気は覚めていた。
あっという間に1時間以上が過ぎ去り、札幌地区で欠けがピークとなる7時50分になった。
この頃、雲が急に厚くなり始め、下敷き越しの太陽も消えたり現れたり。ふと思いついて、下敷き越しに見えなくなった時に肉眼で空を見ると、雲間にかすかに欠けた太陽が見える。
このほんの数秒のチャンスをのがさず、デジカメで直接日食を写すことに成功した。まるで闇夜に浮かぶ上弦三日月のように写ったが、7時52分の札幌地区日食の写真である。(欠け率、およそ84%)
次の金環食は18年後に北海道で見られるらしいが、それまで命が持つかどうかも分からぬ我が身。一生のうちに数回しか見られないであろう奇跡の天体ショーを、夫婦でライブ観察できたことにひとまず満足したい。