最近本はあまり買わず、ほとんどこうしてネット予約して図書館から借りる。節約しつつ、少し待てば新しい本も読める。
今回のお目当ては、川上弘美さんの書いた新作小説「神様2011」である。新聞の書評欄で「群像」の6月号に掲載されていることを知った。
最初の「神様」はASAHIネットが主催した「パスカル文学賞」の第1回受賞作で、1994年のこと。私がインターネットを始める2年前のことだが、今回の作品は17年後に書かれた「震災以後の世界」を描いた続編だ。
元祖「神様」はネットで読んだ。私がネットを始めた大きな理由がこの「パスカル文学賞」に応募することだったが、残念ながら私がASAHIネット加入後にこの文学賞は打ち切りになった。
しかし、パスカル文学賞に関わる会議室(いまでいう掲示板のようなもの)は細々と続いていたので私も参加し、短編を投稿して互いに批評しあったりしていた。
すでに芥川賞を取っていた川上弘美さんが一度だけ会議室に現れ、メンバーに声をかけてくれたことがあった。「みなさんお上手に書かれてます」といった差し障りのない言葉だったが、現役芥川賞作家のコメントにメンバーは舞い上がったもの。
以降、川上弘美さんの小説はかなり読んでいて、好きな作家である。うまく表せないが、力まずにボヤヤ~ンとした文体でさりげなく死生観や宇宙観などを書き綴っているところがよい。
今回の「新・神様」にも、そのイメージがそのまま引き継がれている。主人公の女性もクマさんも相変わらずボヤヤ~ンとしつつも、冷静に震災後の世界を見つめ、足元を確かめつつ生きている。
17年前の「神様」も同時掲載されていて、読み比べができる。川上弘美さんの「あとがき」も実によい。読むと力が湧いてくる。人生で目指すものに大きな違いがないことを知り、彼女の文体が好きな理由がここにあったことも分かった。
以前にもふれたが、震災以後の世界は劇的に変わった気がする。この日本だけでなく、文字通り「世界が」である。断片的に入る情報でもそれは分かる。震災を自分の中でどう捉えるか?そこがいますべての表現者に問われている。
震災を境にブログをぱったりと止めた人がいる。知らぬふりを通す人もいる。一方で、震災を真正面から見据える人もいる。先日、作品展で見た恩師のO先生ご夫妻がその代表で、ウロヨロしていた私も大きな刺激を受けた。
折も折、先週末に実施の居酒屋ライブで、若い歌い手2人がオリジナル・メッセージソングを続けざまに披露した。最近は曲作りともご無沙汰だったが、これら一連の出来事が引き金になり、「震災以後」を強くイメージした新曲がふって湧いたように完成した。
「雲や風と共に」というタイトルで、偶然だが、先の川上弘美さんのあとがき文と同じ世界観の詩である。
♪僕が僕であるために 僕はいまをただ生きるだろう…