「え?そうかい、オレは何も感じないけど…」と応じていたら、居間のペンダントライトが確かにゆらゆら揺れている。
「あれ、ホントだね…」と言っているうち、揺れはだんだん激しくなってきた。身に危険を感じたので、1階では一番安全な脱衣室内に妻と二人で逃げ込んだ。
揺れは非常に大きくて長く、3分間は続いただろうか。すぐにテレビをNHKに変えると、東北で大地震が起きたようだ。珈琲を飲みながらしばらく様子を見たが、まだ全貌が不明であり、余震の気配もないので、予定通りに病院に出かけた。
大地震直後のせいか、病院はガラガラ。呼ばれるまで待合室のテレビに釘付けだったが、津波で流される車や家の様子をライブで見て、被害の甚大さに驚く。診察室にはテレビがないので、皮膚科と歯科の担当医とは、症状よりもまず地震被害情報の交換となった。
診察終了後の帰路も、道は奇妙に空いていた。そのまま近所の大森珈琲に行ったが、ここもさすがに今日は空いている。マスターをほぼ独占状態で、いつもよりつい長居してしまう。
家に戻ってテレビを見ていたら、首都圏でも震度6を記録し、死者もかなり出たらしい。道南の沿岸都市と首都圏に住む子供たちの安否が気がかりだったが、携帯も家電も全く通じない。
気をもんでいたら、夕食をはさんで二人の子供から「無事です」と、相次いでメールが届いた。親に自分の安否をいち早く知らせてくれた気遣いがうれしく、読みながら胸に熱い思いがこみあげた。
まるで親バカではないかと思っていたら、妻も全く同じ気持ちだったようで、横で涙を流している。
岩手には割と親しい放送関係の知人が住んでいる。情報が錯綜していて、安否は全く不明。私の娘のような年齢の方だが、ご両親は北海道在住である。連絡はついただろうかと、気がかりだ。
災害時には携帯、家電、携帯メールは全く機能せず、有効なのはPCメールであることを身をもって知った。海外にいようが国内に身を潜めていようが、この世は常に危険と背中合わせであるらしい。諸行無常である。
ところで、今回の予期せぬ大地震で、衆議院解散や内閣総辞職、首相退陣などの可能性は、一気に遠のいた印象がする。与野党がいがみあって、互いのアラ探しに終始しているような状況ではないからで、こんな非常時にこそ、政治家は真に国民の側に立ち、一致団結して迅速かつ適切な対策をとるべきだろう。
大地震は政治やそれを下支えする国民に対する、天が与えた大いなる試練とも言えるのではないか。