2010年11月4日木曜日

うたかた

「人生はうたかたである」と広言する人がいる。うたかた→泡沫、つまりは泡のようにはかなく消え去る、という意味で、心情的には私もこれに近いが、だからといってやたら広言はしない。
 むかし、ハレー彗星が地球に大接近した際、「地球が滅亡する」と信じ、酒や快楽などの破天荒な行動にふけった人々が実際にいたと聞いた。

 中学校か高校の卒業文集に「明日、地球が滅亡するとしたら、あなたはどうするか?」といった質問があり、私は迷わず「即、寝ます」と記した記憶がある。この種の質問は「将来の夢」と並んで卒業文集の定番のようで、30年近くを経た長女の小学校卒業文集にも、全く同じ質問を見つけて驚いた。
 注目すべきは長女の回答で、まるで申し合わせでもしたかのように「寝る」とあり、二度驚かされた。DNAの連鎖、恐るべし。
 私の文集にも長女の文集にも、他に「寝る」という回答は皆無で、「おいしい物を食べまくる」などの快楽派が多数を占めていたが、ひとつだけ「世界中の人を殺しまくる」という、コワ〜イ回答があって、私と妻を三たび驚かせた。
 成績が良く、リーダー格の女子の回答だったからなおさらである。彼女の精神世界は暗闇だったのかもしれない。間抜けだが、他を傷つけない自己完結型の回答を記した我が娘を、このときは好ましく感じた。

 世界が滅亡せずとも、いずれ人は死に、一個人の精神世界は終わりを告げる。しかし、だから生きているうちに他を排斥しつつ、貪欲に生きるというのか。はかないからこそどう生きるのか?がおそらく問題で、そこにこそ人間として生まれてきた意味があるのではないか。