電話は鳴り止まず、受話器に表示された発信番号を確認する。
(20年以上前からNTTのナンバーディスプレイ契約を結んでいる)
発信は見慣れない番号からだった。少なくとも、母の施設からではない。そもそも母の施設の電話番号は電話機に登録済みで、特別な呼び出し音が鳴る仕組みになっていたのだ。
ではイタズラ電話か?いやいや、イタズラなら番号は非通知で掛けてくるはず。番号非通知電話はブロックされて、呼び出し音すら鳴らない設定だ。すると、単なる間違い電話…?
短い時間に、いろいろ考えた。それほど深夜の電話は不気味なものだ。ナンバーディスプレイ契約をしていない頃は、いろいろイヤな思いや怖い思いをした。月400円でそれが避けられるなら、安いものだ。
ともかくも、恐る恐る受話器をとった。「もしもし…」
春の訪れを予感させる強い陽射し |
しかし、何も声がしない。やっぱりイタズラか?すると、しばしして「ピーッ」という独特の発信音。FAXだ!
「ファクシミリに切替えます」と自動音声が流れ、階下の親機がFAXを起動する音。(こんな夜中に、何のFAX?)と、それはそれなりに不安になり、内容を確かめに階段を下りた。
電灯を点けて送信紙を読む。すると、何としたことか、10年以上もの長いお付き合いのある有料老人ホームの施設長さんからだった。
「お久しぶりでございます。お元気ですか?ライブされてますか?実は○月☓日に、またライブをお願いしたいのですが、ご都合はいかがでしょう…」等々、不安な思いとは裏腹に、のんびりした内容の文面が並んでいる。悪い知らせではなかったことに安堵しつつ、思わず力が抜けた。
推測だが、この日は施設長さんが深夜勤務の担当で、入居者が寝入った深夜にふと思いついて、(FAXだから呼び出し音は鳴らないだろう…)と、時間無視の送信を試みたのではないだろうか。
我が家のFAXは電話と共用で、専用回線ではない。事前に番号を指定し、FAXであることを設定しておけば、確かに呼び出し音は鳴らない。他のFAX番号はすべて登録してあったが、運悪く今回の施設のFAX番号は未登録だった。従って、深夜でも呼び出し音は鳴る。
眠りが深い妻までも、深夜のドタバタ騒動で起きてしまったが、ただのFAXだったと説明しても、いまいち状況が把握できない様子だった。(妻も母に何かあったと思ったらしい)
ひとまず安心して寝たが、今日になってさっそく番号を設定し直した。だが、懇意にしている施設長さんは、数年おきに移動がある。別施設に移ると、また同じことが起きそうだ。関連施設のFAXを、全て事前に登録設定しておくべきか…。