近隣の特養ホーム秋祭りで歌ってきた。依頼は最近激増するネット経由。完成して間もない施設で、大規模なお祭りイベント自体が初めてだという。屋外でやることは決まっていたが、音響システムがはっきりしない。
入居者は100名で、これに家族や職員を含めると、参加者は150名を軽く越えるという。広い屋外で小さすぎるPAは要注意だ。不安があるので、事前に現地調査に行った。
持参したミキサーを施設にあるワイヤレンスアンプにつなぐと、普通に音が出た。調整した各種数値をメモし、本番はこの組合せで臨むはずだった。
当日は青空の広がる絶好の秋晴れ。開始30分前に会場に入ると、音響が全く別のものに変わっている。施設側のPAの調子が悪く、急きょ他のPAを借りてきたという。
事前の調整は無駄になってしまったが、PAそのものは立派で、メインアンプから3本のマイクと3個のスピーカーが繋がれている。会場を取り込むようにスピーカーが配置され、音の通りは抜群。
問題は私のミキサー端子をどこにどう繋ぐかだが、コネクター付きの長いマイクケーブルが使えそうな感じが直感的にした。
余興の1番手としてフラダンスがまず登場。進行が15分遅れていて、11時半から開始。ダンスを横目に、すぐに機材を組み立てた。
11時50分にフラダンスが終了。マイクスタンドやミキサーは事前にミニステージ上に設置しておいたので、ただちに見込みをつけておいたマイクケーブルにミキサーを接続。
PAに明るい人がいないので、接続の手順や調整は全て私の判断で進めたが、幸いに音は一発で出た。
涼しくなってきたので、この日から衣装は長袖シャツに変更。ただ、「祭り」を意識して頭には帽子ではなく、赤いバンダナを巻いた。
あっという間に設定が終わり、「早めに始めてください」との担当者の要望から、予定より8分早い11時52分から歌い始める。およそ27分で以下の10曲を歌った。
「憧れのハワイ航路」「知床旅情」「炭坑節」「幸せなら手をたたこう」「浪花節だよ人生は」「童謡メドレー:夕焼け小焼け・紅葉・赤とんぼ」「高校三年生」「丘を越えて」「月がとっても青いから」「まつり」
会場が非常に広く、客席の周囲には屋台や縁日の出店が並んでいて、全体的にざわついた雰囲気。ある程度それを見越して、ストローク系の調子のよい曲を並べたが、その判断は正解だった。(選曲は全面的に任された)
特養(特別養護老人ホーム)なので、デイサービスや多機能型施設に比べると、介護度の高い方が大多数。大きなかけ声等はなかったが、サポートする職員やボランティア、家族の方々がうまく盛り上げてくれた。
お祭り系イベントでいつもラストに歌う「まつり」で、ラストの歌詞に施設名を入れて歌い終えると、場は拍手喝采で最高潮に達する。大きなトラブルもなく、無難に場をまとめて、担当者を始めとする多くの方々から喜ばれた。
関係者の一人から、年金関連の演芸イベントに出演しないか、と打診される。毎年9月に近隣の街づくりセンターで実施されるそうだが、現状ではスケジュール的に厳しい。身体が2つ欲しい。
終了後、飛び入りで入居者2人のハモニカ演奏がある。進行を急いでいた理由はこれだったらしい。昼食をいただきつつ、次の出し物の阿波踊りを見物する。フラダンスでは持参したラジカセの音をマイクで直接拾っていたが、ここでは生演奏の横笛と太鼓に合わせて踊っていた。
食事中、通りすがりの高齢者の女性から話しかけられる。さっきの歌、素晴らしかったです。以前に玄関前で練習してましたよね?その時もずっと2階から見てたんですよ。
聞けば「月がとっても青いから」が大好きだとか。もう一度聴きたいというので、その場でアカペラでさわりを歌うと、喜んで一緒に歌い出す。歌詞を知りたがるのでいったん箸を置き、車に置いてある予備の楽譜を持ってきてさし上げた。
しばらくすると、再度近寄ってきて、もう一度一緒に歌って欲しいという。本当はあなたのギター伴奏で歌いたいというが、目の前では阿波踊りの真っ最中で、それは無理。
希望通り、1番だけをもう一度一緒に歌う。音程がしっかりしていて、88歳という年齢に見合わぬ美声。「月がとっても青いから」は音域が広い難曲だが、かって民謡を習っていたことがあるという。次回、ぜひあなたの伴奏で歌わせて欲しいと念を押された。
そばにいた家族(娘さんとお孫さん)からは、無理ばかりお願いしてすみません、と恐縮されたが、人生を前向きに生きるその姿勢に、ちょっと感動した。