2013年9月15日日曜日

好きじゃない

 近隣のグループホーム敬老会に出演。初めての施設で、依頼はネット経由であったが、「全曲を歌声喫茶ふうに歌詞カードつきで一緒に歌う」という前例のない要望が当初あり、私の手には負えない感じがした。
 協議のすえ、共に歌う曲は3曲に減らして実施することに。ただ、他の曲もすべて事前にリストアップしてチェックを受けるという条件が追加で出された。
 さらには、実施前に会場調査にも来て欲しいとの要望。この種の条件がいろいろ出ることは稀にある。暇な時期なら大きな問題ではないが、折しも2ヶ月で14本という、超多忙スケジュールのまっただ中。

 それでも何とか時間をやり繰りし、先方の要望には全て応じた。当初は入居者9名とその家族が対象という話が、系列の別施設からも参加者がやってくることになり、実施前から難しいライブになりそうな予感がした。


 予め打合せてあった奥の和室にステージ設定。ところが、予想以上に参加者が多く、マイク前ぎりぎりまで椅子がズラリ並んでいる。最前列では音が大きすぎるのが明らかだったので、何とか椅子を下げてもらうようお願いしたが、多くは無理な状況。
 マイクとPAの位置を後方に下げようとすると、今度は左手の壁が邪魔になり、入口付近から全く見えなくなってしまう。結局そのままの位置で始めることにしたが、リスクが高いので、珍しくマイクテストとして数曲歌った。
 入口付近の音はOKだったが、問題は最前列である。「耳が遠いから、多少大きめでもいいでしょう」との声があり、そのまま始めることにしたが、これが最初に犯した間違い。
 人の集まりが遅く、5分遅れの13時35分から歌い始める。ざっと人数を数えると職員を含めて50人近い人で、まさに立錐の余地もない状態。ともかくも、事前提出のリストに従って、40分で以下の14曲を歌った。
(※はリクエスト)(◎は歌詞指導)

「高原列車は行く」「バラが咲いた」「高校三年生」「リンゴの唄※◎」「夕焼け小焼け・紅葉・赤とんぼ◎」「幸せなら手をたたこう」「ここに幸あり」「青い山脈※◎」「お富さん」「月がとっても青いから」「故郷※◎」~「知床旅情(アンコール)」


 場の反応はいまひとつ。よく言えば大人しく、悪く言うなら、まるで乗ってない印象だった。実は直前のマイクテストからそんな予感はあって、他の場ならこの時点で盛大な拍手が湧くのが常。しかし、それが全くない。
 いわば「笛吹けど踊らず」状態のままライブは進んだ。歌詞指導つきの曲「リンゴの唄」でもそれは変わらず、一緒に歌う声はごく少数。ここで力んでも仕方がなく、焦らずに淡々と歌い進めたが、場が最も乗ったのは意外にも中盤の童謡メドレーである。
 多くの方が一緒に歌い出すので、咄嗟に予定を変更して歌詞指導つきに切り替えた。

 場の空気からして、そのまま童謡系の歌を連発すれば、大いに盛り上がったのは間違いない。しかし、ここで事前に提出した曲リストが邪魔をした。一瞬迷ったが、面倒を避けて打合せ通りの曲を歌う選択をした。これが2つ目の判断ミスである。
 弱い手応えのままライブは進み、ラストの「故郷」で少し盛り上がって、どうにか終わろうとしたら、職員から「ぜひアンコールを」の声。場がそんな気分でないことは歌っている本人が一番分かっているのだが、時計を見ると予定より少し早い。いわゆる「時間調整アンコール」である。
 無難な曲でまとめ、そそくさと機材を撤収していたら、職員が一人の女性入居者に「今日はどうでしたか?」と声をかけている。ここで予期せぬ言葉が返ってきた。

「私はこういうの好きじゃないね。ただ怒鳴ってるだけじゃないの」

 そんな言葉は想像もしてなかったのか、職員も思わず絶句。当の私は目の前で片づけをしているが、そんなことはお構いなしだ。足掛け9年の施設訪問活動を続けているが、こんな酷い言葉を直接言われたのは、初めての経験。
「怒鳴っている」という言葉は、つまりPAの音が最前列で大きすぎた、とも解釈できる。ただ、他にもいろいろ不満はあったのだろう。
「赤とんぼ」で涙を流したり、終了後に「また来てくださいね」と声をかけてくれた方もいるにはいたが、たとえ一人にでも「好きじゃない」と言われてしまえば、そのライブは失敗である。

 どのような条件下でも柔軟に対応し、場をうまく収めるのが歌い手としての力量だろう。しかし、それを阻害する外部要因があっては事はうまく進まないし、進めようがない。
 活動9年目にして初めて学ぶものがある。依頼を受ける体勢を、少し考え直してみたい。