2012年9月27日木曜日

本来のストリートライブ

「札幌駅前通地区を活性化しよう」という実証試験の一環で、「HANA CAFE」というイベントが実施された。北海道庁東側の1ブロックを完全に交通遮断し、そこをオープンカフェとして市民に開放しようというもの。
 空きスペースで音楽や大道芸を披露したいという意向があり、チカチカパフォーマーに出演の要請がきた。普段は地下歩行空間限定で歌っているが、ホコ天やオープンカフェで歌う絶好の機会なので、好奇心のおもむくまま、協力することにした。


 4日間に渡って10時から19時まで開催されるロングイベントの初日。私の割当ては14-16時で、同じチカチカパフォーマーであるジャグリング弥勒さんとの共演である。
 20分前に会場に着くと、一足早く弥勒さんがパフォーマンス中。しかし、曇天で肌寒いせいか、係員の呼び込みにも関わらず、オープンカフェに座る客はまばら。ジャグリング演技の一部に協力してもらう市民を探すにも一苦労している様子だった。
 機材をセットして準備したが、風が強いせいで電子譜面台の収まりが安定せず、液晶もかなり見にくい。真っ白な曇天の空がモロに画面に入ってしまうせいだった。
 電子譜面を断念し、予備に持参した紙の譜面を使おうといったんはセットしたが、こちらも強い風でめくれてしまい、安定しない。迷ったが、液晶の明るさを最大に設定し、位置を下端にまで下げてみたら何とか歌えそうだった。


 出だしで手間取ったせいで、14時5分からライブ開始。この日は勤めが休みの妻が付き合ってくれ、広報誌の取材で来ていた顔見知りのAさんも同席。ほぼ関係者のみ、という厳しい条件のなかでライブは始まった。
 およそ30分で以下の11曲を歌う。第1ステージの切り口は「1960年以前の懐メロ限定」で、かなりの冒険を試みた。(※は初披露)

「東京ドドンパ娘」「星影の小径」「月がとっても青いから」「有楽町で逢いましょう」「黄昏のビギン」「ここに幸あり」「ブンガワン・ソロ」「星の流れに※」「東京ラプソディ※」「蘇州夜曲」「りんごの木の下で」
 2枚つなぎの譜面隠しは風であおられないよう、頑丈に2ヶ所をヒモで結んだが、歌い始めると風で全体がぐらぐら揺れた。やむなく、右足でスタンド脚の一部を押さえながら歌うことに。

 歩道をゆく人は皆無ではないが、とにかく誰も近寄ってこない。地下よりもさらに難しい状況である。それでも半分くらい歌ったあたりで、数人の中高年の方が椅子に座り、じっと聴いてくださった。
「東京ラプソディ」では手拍子まで飛び出したので、厳しい条件のなかではよしとすべきだろう。


 終了後、ただちに弥勒さんの第2ステージ開始。相変わらず人は集まってこない。業を煮やした弥勒さん、遠くで立ち止まった数人の客を呼び込みつつ進めていた。
 15時15分から再び私の出番。第2ステージの切り口は「1960年以降の昭和歌謡」で、街角のライブに相応しい選曲を意識した。およそ35分で以下の12曲を歌う。(※は初披露)

「草原の輝き」「花の首飾り」「ブルーライト・ヨコハマ」「恋の季節」「バス・ストップ※」「ジョニィへの伝言」「時の過ぎゆくままに」「時の流れに身をまかせ」「どうにもとまらない※」「ウナセラディ東京」「ラブ・イズ・オーヴァー」「また逢う日まで(アンコール)」
 出だしは相変わらず閑散としていたが、第1ステージ同様、5曲を歌った頃から少しずつ人が集まりだす。ストリートライブの極意は、とにかくひたすら歌い続けることだ。
 すると、「時の流れに身をまかせ」から状況が激変した。中高年を中心に人が増え始め、みなさん椅子に座って熱心に聴いてくれる。恐る恐る歌ってみた「どうにもとまらない」ではさらに人が増えた。一部カットするつもりが、思わずフルコーラス歌ってしまう。

 ふと気づくと、周辺の椅子には関係者を除いても10名前後の人々。「これで終わりです」と最後の曲を歌い終えても、誰一人席を立とうとしない。つまりは、無言のアンコールなのだった。
 時計を見ると15時45分。地下では人が引き始める時間帯で、こんな経験は初めてだったが、用意してあった「また逢う日まで」をありがたく歌わせてもらう。

 聴き手の増減は別にし、道庁と並木道を背景にレンガ道の上で歌うのは非常に気分がいいものだった。反響が何もない通りの真ん中なので、自分の声が空に吸い込まれるような感じだったが、あれこそがごまかしの一切きかない、ストリートライブ本来の姿であろう。久しぶりに得難い体験をさせてもらった。