つい最近、とある女性から作曲を依頼された。歌詞はすでに完成していて、別の男性の作品。曲のイメージを話し、書いていただいたそうで、以前にフォーク居酒屋の定例ライブで何度か見かけたことがあり、言葉を交わしたことはないが、顔見知りの男性である。
依頼主の女性T子さんとは、半年近く前に同じ居酒屋で知り合った。私が作詞作曲を手がけるのを知り、「曲をお願いするなら、TOMさん(私のこと)しかいない」と言う。
その居酒屋の常連で、他にもオリジナルを手がける方は多くいる。なぜよりによって私に?といぶかると、曲調から考えて私が最適なのだと譲らない。
小脇にしっかり抱えたノートをひとまず見せていただくと、なるほど、故郷への想いを切々と訴えかけた歌詞で、いかにも叙情系の歌作りを得手とする私むき。歌詞作りを指名した眼力といい、彼女のプロデュースのセンスは、なかなかのものと見た。
あまりに強く懇願され、断りにくい雰囲気になった。そもそも、「あなたでなければ…」というコロシ文句に私は弱い。多くの中年オヤジ同様、オダテには極めて弱いのだ。
「私でいいのなら…」と内心では喜びつつ、ノートごと受け取ったが、実は居酒屋の仄暗い灯りの中で歌詞を一目読んだ瞬間、サビの部分のメロディはすでに完成していた。いわゆる「歌作りの神が静かに舞い降りた」のだった。
少し頭を冷やしたのち、今日の夕方ギターを握ってつまびいてみたら、ほんの15分で大枠が完成した。曲が出来ないときはウンウン唸っても何も出ないが、出来るときはごく簡単に出来てしまうもの。
完成した曲を通して歌ってみたら、泣けた。これまた久しぶりのことだ。歌詞の中にこめられた故郷への熱い思いが、自分の中でピッタリ寄り添ったせいだろう。
タイトルは「Teimi」という。T子さんが生まれ育った地域の名で、偶然だが、我が家の子供たちが小さかった頃、同じ地区にあるキャンプ場やサッカー場に何度も通ったことがある。歌詞に登場するいくつかの言葉が、まるで自分の故郷のことのように思えるのは、そのせいだ。
キーはT子さん自身が歌うことを考慮し、低めでオーソドックスなCにしたが、歌詞に潜む懐かしさ、切なさの世界を表すため、一部にDm6~E7と流れるコード進行を使った。これがピタリ決まったと自分では思う。
いまのうちに泣ききって充分ガス抜きをしてからでないと、とても人前では歌えない。来月の定例ライブまでには何とかしたいが、どうなりますか。