2016年2月11日木曜日

母の暮らす施設で歌う

 母の暮らす施設で初めて歌った。入居当初から協力は申し出ていたが、2年余を経てようやく実現したきっかけは、今年から週一回利用するようになった系列のデイサービスから。
 普段暮らしている施設の担当者が、以前に別の施設で勤務していた際、私の歌を偶然聴いたという。デイサービスに早く馴染んでもらうには、息子の私が歌うのが効果的かも…と、考えが一致。トントン拍子に話がまとまった。

 デイサービスは施設内の一室を使っていて、渡り廊下を使ってスムーズに移動できる。部門が出来てまもないこともあって、ボランティア演奏はほとんど頼んでいない様子。
 家族としては月一回ペースで定期訪問しているが、いざ歌うとなると立場が微妙に異なる。家族向けではなく、あくまで一般の介護施設と同じ体勢で臨むべきだった。


 開始は14時からだったが、早めに準備が整った。予定より早く、14時3分前から歌い始める。
 聴き手は20名ほど。場としては初めてなので何がどう受けるかは分からず、全くの手探り。先月末のデイサービスで評判のよかった構成をベースに、およそ50分で16曲を歌った。

「北国の春」「白い想い出」「二輪草」「バラが咲いた」「大空と大地の中で」「仰げば尊し」「お富さん」「二人は若い」「リンゴの唄」「ここに幸あり」「時の流れに身をまかせ」「月がとっても青いから」「高校三年生」
〜リクエストステージ
「青い山脈」「影を慕いて」「リンゴ追分」
 室内のホワイトボードには「昭和歌謡ショー」と書かれていて、おおむねそれに沿った内容だったが、歌い進んでもいまひとつ手応えは弱かった。
 デイサービスとしての日が浅く、利用者がボランティア演奏に慣れていない印象もした。やや遠い位置に座っていた母も、どう振る舞っていいのか、戸惑っている様子が見える。

 6曲目までは予定通りの曲を順に歌ったが、7曲目から急きょ路線を懐メロ系に変えてみた。こんな状況下で場の空気を一変させるには、「お富さん」に限る。
 古い歌だが、何も言わずとも自然に手拍子が出るハズレがない無難な曲だ。思惑通り手応えがよかったので、似た曲調の懐メロを連発する。「時の流れに身をまかせ」で少しだけ路線を昭和歌謡に戻したあと、ラスト2曲を無難な定番曲で締めくくった。


 すでに40分近くが経過していたので、これで無事終了のはずだったが、期せずして責任者の方からリクエストが飛び出す。週5回の運営日に、毎回欠かさずラストに全員で歌う曲があるそうで、それが「青い山脈」なのだった。やはり懐メロである。

 事前に確かめなかったのが間違いだったが、一般のデイサービスとは形態がやや異なっていて、あくまで住宅型有料老人ホームの延長上にあるデイサービスだった。
 毎日送迎されて一般家庭からやってくる利用者は現段階ではゼロで、利用者の全てが隣接する住宅型有料老人ホームの居住者。聴き手は定住性の高い有料老人ホームか特養ホームに準じたものと最初から考えるべきだった。
「青い山脈」を全員で歌ってにぎやかに締めくくったはずだったが、その後利用者からリクエストが続々と飛び出す。遅まきながら場が乗ってきたあかしなので、可能な限りお応えした。
「影を慕いて」「リンゴ追分」はどちらも初披露だったが、まずまずの出来。このほか応えられなかったリクエストに、「おまえとおれ(杉良太郎)」「ラバウル小唄」「お座敷小唄」など。「お座敷小唄」は歌えたが、予定時間をかなりオーバーしていたこともあって、次回以降の機会に、ということでお開きとなる。

 情報収集不足などあって場のつかみに腐心したが、施設側にはおおむね好評。生前に父の施設では一度歌っていて、母の前ではまだ歌っていないことがずっと気がかりだったが、ようやく憂いが晴れた。