昼休みを利用した旧道庁前赤レンガ広場でのアカプラパフォーマンスを終え、この日2つめの路上ライブ会場となる地下広場へと移動。位置的にはアカプラのほぼ真下で、移動時間はごく少ないが、周囲の景色は一変する。
この日は月曜にも関わらず、地上も地下も人通りが少ないように感じられた。もしかすると、給料日直前ということが関係していたかもしれない。
開始は14時なので、機材設営前にまずは腹ごしらえ。組立式の椅子に座り、途中のスーパーで買ったサンドイッチを食べる。広場と地下通りの境界に置いた看板には、予め準備しておいた「パフォーマンス開始は14時です」との紙を貼った。
地下広場での共演はジャグラーのはち君だったが、開始時間が迫っても姿が見えない。自主判断で14時からトップで始めることにした。
結果として45分間で計13曲を歌う。
「珍島物語」「瀬戸の花嫁」「愛人」「夜霧よ今夜も有難う(2度歌う)」「恋のしずく」「バス・ストップ」「時の過ぎゆくままに」「五番街のマリーへ」「男と女のお話」「空港」「あなたならどうする」「グッド・ナイト・ベイビー」
地上では洋楽系→フォーク系と歌い継いだので、地下では演歌系→昭和歌謡系とつなごうかと、漠然と考えていた。
最初の数曲は事前に決めておくが、以降は場の雰囲気に合わせて、目についた曲を適当に見繕って歌う、というのが最近のやり方だ。
歌い始めると、2曲目あたりで喉に異変を感じた。イガイガした感じがあって、思うように声が出ない。実は地上でもそれはあって、ラスト近くに歌った「季節の中で」の高音部で、一部声が切れる、というトラブルがあった。
明け方の寝冷えが影響していたのは間違いなかったが、3曲目の「愛人」でいよいよそれが顕著になり、やむを得ず歌を中断。幸いに、そこまでに立ち止まる人はいない。
急きょ、看板横に置いてあったリクエストスタンドを撤去する。このまま歌い続けられるかどうか分からなかったし、少なくともリクエストを受けられる状態ではない。
落ち着いて水を飲み、深呼吸。試しに少し歌ってみると、いけそうな感じがする。気を取り直して、「愛人」を最初から歌い直した。通りの遠くからそれを耳にした女性が、歌い終えると盛大に拍手をくれた。何とかいけそうだ。
気持ちが落ち着いたせいもあったのか、喉はじょじょに普段のペースを取り戻した。それに応じて、立ち止まる人も増えてくる。
「夜霧よ今夜も有難う」では、途中から聴き始めた女性が歌い終えたとたん「いまのもう1回!」とリクエスト。この歌では以前にも同じことがあった。最近は独自の歌唱法にたどり着いていて、どこで歌っても手応えを感じる。
「バス・ストップ」を歌い始めると、どこか見覚えのある中年男性が立ち止まってじっと聴いている。終わると「《バス・ストップ》をここで聴くのは、今日で3度目です」と声をかけてきた。言われて気がついたが、以前にも声をかけてくれた方だった。
「いつも思うけど、菊地さんの《バス・ストップ》は、ちょっと普通のとは違ってますよね、どこかフォーク風というか…」
「よくそう言われます。なに歌ってもフォーク風、叙情歌風に聴こえる、と」
つまりは、あらゆる歌を自分の中で「叙情的」にかみくだき、自己解釈してしまう、ということなのだろう。肩書きを尋ねられたとき、迷わず「叙情歌シンガー」と応ずる所以。このところ地区センターで定期開催中のリクエスト型コンサートも、「叙情歌サロン」ではないか。
30分過ぎたあたりで、共演のジャグラーはち君が会場に現れる。準備が整うまでの間、1曲毎に声をかけながら歌い続けることに。
喉の異変という不安もあり、「グッド・ナイト・ベイビー」でこの日はラストにしようと歌っていたら、通りで手を振る見覚えのある顔。街作り系イベントで知り合ったハンマーダルシマー奏者のchikaさんではないか。
以前にも別の広場で歌っていた際、偶然に通りかかったことがある。よくよく縁のある方だ。
前回は1枚目のオリジナルCDを、今回は2枚目のCDを買っていただく。終了後、10月にご一緒する予定のイベントライブで、コラボをやるか否かの簡単な打合せをする。
当初はふきのとうファンのchikaさんに合わせ、「やさしさとして思い出として」を提案していたが、ちょっと難しいとの返答。新たな候補として、「エーデルワイス」「アニー・ローリー」が挙がる。いずれも手慣れた曲なので、大きな問題はない。
曲の途中で歌えなくなる、という前代未聞のアクシデントに遭遇したが、どうにか乗り切った。190万都市札幌でも意外に狭いことを改めて知った、何とも不思議な一日である。