2017年6月11日日曜日

手探り的進行

 2ヶ月前に依頼されていた地域カフェで歌った。依頼主はチカチカパフォーマンスで知り合ったS子さん。知り合ったのは数年前のことだが、地域の民生委員を務めている関係で、いろいろなイベントに呼ばれるようになった。
 今回の場は、この4月から月に2回ペースで始まった地域の認知症カフェ。場所は過去に2度歌ったことのある、車で1時間弱の町内会館である。

 先月下旬から続いている風邪の症状が延々と長引き、3週間近く経っても完治しない。この間、依頼されていた2つのライブをキャンセルするという失態をやらかしたが、今回のキャンセルは何としても避けたかった。
 ずっと歌えない状態が続いていたが、1週間前からようやく練習再開。声はじょじょに出るようにはなったが、時折咳き込んだり痰が絡んだりし、本調子には程遠い。前日ぎりぎりまで調整を続け、どうにか歌えそうな状態まで持ち込んだ。
 当日はあいにくの雨。ひき始めの先月末に強行したカフェライブと奇しくも同じ条件だった。直前の練習で高音がやはり安定しない。前半は曲によってキーを半音下げることを、この時点で決断した。
 開始30分前の9時45分に会場に着く。雨は降り止まず、こんな悪条件の日に限って声の出にくい午前中ライブである。


 10分ほどで設営終了。声量に不安があるので、PAは2台使うことにした。設置にマイクスタンドを使うと機材重量が増えて時間もかかるので、この日は予備PAを手近な椅子の上に置いた。
 状況次第では背面の白い壁にプロジェクターで歌詞を投影するつもりで、機材一式も準備していた。しかし、事前に何も打合せていなかったせいか、ステージ後ろにはイルミネーションが全面に設置されている。スクリーンを張ると隠れてしまい、せっかくの配慮が無になりそうで、あえて提案はしなかった。
 予定ぴったりの10時15分に開始。前半は45分で11曲を歌う。(※はリクエスト)

「時の過ぎゆくままに」「青葉城恋唄」「サン・トワ・マミー」「古城」「パープルタウン」「牧場の朝」「バラが咲いた(歌詞指導)」「空港※」「ウナ・セラ・ディ東京※」「少年時代※」「あの素晴しい愛をもう一度※」

 出掛けには栄養ドリンク剤を飲み、ライブ直前には用意したハチミツ大根を飲むなどして備えたが、やはり喉に不安がある。前半は手探り的進行にならざるを得なかった。
「青葉城恋唄」「古城」はリスクを避け、キーを半音下げて歌う。それでも最高音で声がかすれそうになるが、高音へ一気にいかずに、スラーをかけて歌うことで、かろうじて堪える。
 はっきりいってゴマカシ技だが、非常事態なので決定的なミスを避けるためには、やむを得ない措置だった。


 激しい雨にも関わらず、聴き手は30名ほども集まった。見慣れない顔も多かったが、あとで聞いたら広域の町内会に回覧を回したそうで、集客につながったようだ。
「認知症カフェ」とあるが、はっきり症状のある方は見当たらず、見たところごく普通の中高年である。実態は「認知症予防カフェ」ではないだろうか。

 不安な進行が続いたが、セレクトタイムのラストとなる7曲目の「バラが咲いた」を口頭での歌詞指導で歌ったら、場の反応がぐっとよくなった。以降、リクエストが順調に出るようになり、それに応じて喉の不安も次第に解消されていった。
 事前に打合せし、リクエストを募るメッセンジャー役を責任者のS子さんに託したことが、スムーズなリクエストにつながった。
 リクエストが予想外にたくさん出て、前半を予定より5分遅れて終わる。持ち越したリクエスト曲を後半に回すほどだった。
 11時7分くらいから後半開始。40分で12曲を歌う。(◎以外はリクエスト)

「くちなしの花」「アニー・ローリー」「二輪車」「吾亦紅」「宗右衛門町ブルース」「空も飛べるはず」「川の流れのように」「雪が降る」「シクラメンのかほり」「ろくでなし」「365日の紙飛行機◎」「この広い野原いっぱい(歌詞指導)」


 後半は場も次第に乗ってきて、喉の調子もじょじょに回復。キーも普段通りに歌えるようになった。
「アニー・ローリー」は初めてリクエストを貰ったが、非常に出来がよく、場がしんと静まり返った。「吾亦紅」「川の流れのように」「雪が降る」も似た反応だったが、どちらかといえば叙情的な歌を場は求めていたように思える。

 ラスト近くの「ろくでなし」で手拍子をする人が数人でたが、実はこの曲は手拍子のリズムを合わせにくい。しかし、場は手拍子を求めている。
 そこで一計を案じ、ノリがよくて手拍子のしやすい「365日の紙飛行機」をラスト前に歌うことを提案。事前に手拍子も誘導すると、会場は一気に盛り上がった。新しいが、こうした状況にはよく似合う非常に便利な曲だ。
 ラストの「この広い野原いっぱい」はカフェのテーマ曲のような位置づけで、準備段階だった昨年もラストで歌っている。穏やかな曲調が、熱冷ましにはぴったりだった。
 終了後、多くの方に声をかけられ、労われた。「アニー・ローリー」をリクエストした女性からは、「今度私たちの組織でもぜひ歌って」と、名刺を求められる。

 自分の管理不行き届きからくる体調悪化も含め、難しい条件がそろっていたが、声をかけてくださったS子さんの顔を何とかつぶさずに乗り切れた。
 決してほめられたことではないが、「悪いときでも悪いなりに乗り切る」という対処法を会得できたかもしれない。