実は当時3度目の訪問を約束していたが、思いがけないガン告知と入院手術により、キャンセルせざるを得なかった経緯がある。よくぞ2年近くも忘れずにいてくれたもの。
片道25キロほど離れているので、裏道を通っても50分かかった。担当のSさんは施設長に栄転していて、あいにくこの日は急な契約が入り、留守。
施設そのものは初訪問で様子がまるで分からなかったが、思っていたよりも利用者が少なく、20名強。2台準備していったPAは、1台のみでやることにした。
予定ぴったりの15時からスタート。およそ50分で15曲を歌った。
(※はリクエスト)
「釜山港へ帰れ」「お富さん」「おかあさん(森昌子)」「ソーラン節」「みかんの花咲く丘」「幸せなら手をたたこう」「リンゴの唄」「夜霧よ今夜も有難う」「お座敷小唄」「バラが咲いた」「月がとっても青いから」
「霧の摩周湖※」「恋の町札幌※」「襟裳岬(森進一)※」「花笠音頭」
全国規模で展開する施設で、市内の他4施設ですでに定期的に歌っている。しかし、施設ごとに利用者の傾向は全く異なるのが常。何が受けるか分からないので、1曲毎に手探りで進めていった。
5曲目くらいまでは職員の方がそれぞれ別の作業に忙しく、ライブに全く参加しなかったこともあり、進行の全てを私一人でやらざるを得なかった。
ボランティア演奏そのものに慣れていないのか、全体的に反応が弱く、表情も硬い。どう反応してよいのか、戸惑っている様子もみえる。介護度の重い方が数名いたことも影響していたかもしれない。
歌詞やコードを見失わないよう注意しつつ、極力利用者の顔を順に眺めながら歌う。世間話的なMCも普段より多めにした。
6曲目の「幸せなら手をたたこう」で、ようやく場がほぐれてきた。手の空いた職員さんが参加してくれたのも大きい。この種の聴き手参加型の曲は5〜6番目に配置し、局面打開を図るのが効果的だ。
7曲目が終わったところで、担当のSさんが契約を終えて戻ってきた。そのまま横に立ってもらい、この日のライブに至った経緯などを簡単に説明。場はさらに柔らかくほぐれてくる。
10曲目の「バラが咲いた」を歌い終えると、突然一人の女性から「リクエストいいですか?」と声がかかる。職員を介さない直接のリクエストは、極めて稀。予定曲を一通り終わってからリクエストタイムを設けるつもりでいたが、場の流れを尊重し、急きょ応えることにする。
それが引き金となり、続々とリクエストが飛び出す。予定曲をひとまず保留にして対応した。
リストは特に配っていないので、全くの出たとこ勝負だったが、不思議なことに全てレパートリーにある曲だった。
リストは特に配っていないので、全くの出たとこ勝負だったが、不思議なことに全てレパートリーにある曲だった。
先日のチカチカパフォーマンスでも感じたが、聴き手のリクエストには、ある一定の傾向が確かにある。それは必ずしも自分の歌いたい曲とは一致しないが、ある場で飛び出したリクエストは、別の場でもまた出る可能性が非常に高い、ということだ。
仮に歌えない曲を要望されても、決してそれで終わりにせず、可能な限りレパートリーに加えておくこと。地道な努力はいつか必ず実を結ぶだろう。
気がつけば、予定を5分もオーバーして歌い続けていた。始まりの頃と終わりの頃の聴き手の表情は、まるで違っている。初めての施設だったが、辛抱してうまく乗り切れた。