2014年5月4日日曜日

製図器械を断捨離

 先月末に地元紙夕刊の掲示板欄「差し上げます」コーナーに載せてもらった製図器械の引き取り手が、ついに現れなかった。武藤工業製の「ドラフター」と呼ばれるもので、元々は結婚前の妻が所有していた。
 実は妻は、今や死語と貸した「トレース」という技能を持っていた。

 既存の図面の上にトレーシングペーパーを貼り、鉛筆や烏口でなぞって新たな図面を作成する技能で、時に簡単なメモを元に作図することもあり、普通の製図と変わらない技術を持っていた。
 まだCADなど影も形もない時代に、ゼネコンや設計事務所の求めに応じ、図面を原図で収めることが普通だった時期。何かと重宝された専門職である。

 結婚後も自宅で仕事ができるということで、妻は独身時代に中古でこの製図器械を手に入れていた。実際に子育て中に自宅で仕事を請け負っていた時期もあったので、それなりに役立っていた。


 私が脱サラして事業をおこしたのちは、もっぱら私の仕事用として使われることになり、この器械から多くの収入を得たもの。途中一度だけ内部のワイヤーが切れて修理を施したが、都合30年近く、酷使に耐えて大活躍してくれた。

 CADが登場した10数年前からじょじょに出番は減り、最後に使ったのは確か10年近く前のこと。以降は全く出番がなくなり、押入れ奥の段ボール箱で静かに眠っていたが、まだ普通に使えるので、どうせなら必要な人に役立てて欲しいと、新聞に投稿することにした。
 しかし、待てど暮らせど電話は鳴らなかった。以前に同じコーナーで弓道用具一式を掲載させてもらった際は、10人近い方から引き合いがあったものだが、もはや手書きの製図器械など、タダでも不要、という時代になってしまったらしい。
 少し寂しい気がしないでもないが、再度押入れに戻す気持ちはサラサラなく、今後使うかもしれない1/10スケールだけ残して、来週の燃えないゴミの日に、すっぱり出してしまおうと思う。

 思い出が詰まっていることは確かだが、骨董品としての価値もなく、感傷に浸ってゴミを次世代に残すつもりもない。またひとつ断捨離が進む。