2013年8月20日火曜日

手強いリクエスト

 平日だが、隣区にあるデイサービスに歌いに行った。実はこの施設、今年3月始めにも歌ったばかり。依頼があったのはわずか5日前だったが、急きょ歌うことが決まった。
 8月は夏祭り系ライブ以外、あまりスケジュールが入らないのが常だが、今年に限っては例外。毎週のように予定が詰まっていて、依頼された当初はさすがに気がすすまなかった。
 しかし、前回聴いた利用者の方の強い要望があったことを知る。歌い手にとっては殺し文句に近く、請われるうちが華と、フラフラお受けすることに。

 とはいえ、連日の猛暑で中一日でのライブは厳しい。冒険は避けて手慣れた夏メニューとし、練習もほどほどにして、気力体力の温存に努めた。


 開始は前回と同じ14時から。暑さはそれほどでもなく、湿度も低くてカラリとした過ごしやすい陽気。条件としては悪くない。一昨日のライブの反省から、曲数を1曲減らし、およそ35分で以下の11曲をまず歌った。

「憧れのハワイ航路」「バラが咲いた」「ブルーライト・ヨコハマ」「夜霧よ今夜も有難う」「浜辺の歌(ノーマイク)」「涙そうそう」 「幸せなら手をたたこう」「サン・トワ・マミー」「われは海の子」「ここに幸あり」「丘を越えて」
 前回歌ってから5ヶ月余しか経っていないので、重複曲は避けた。ただ、歌い始めると、場の雰囲気が前回と微妙に違う。反応はとてもよいのだが、空気感のようなものに微妙な変化がある。
 職員さんの顔ぶれは大差なく、ステージの場所も同じ。違っているのは季節だけのはずだったが、それ以外の何か。歌っている人間にしか分からない直感のようなものである。

 あとで担当の方に聞かされたが、実は前回が日曜で今回が火曜。曜日が異なると利用者の大半が別メンバーになるそうで、前回と重複している利用者は、2名だけだったという。
 そうしたデイサービスの仕組みをよく知らず、「利用者の要望」というので勝手に同じ方ばかりと思い込んでいたが、実はその2名の方によるリクエストライブだったということだ。


 いきさつはともかく、ライブとしての出来は悪くなかった。この日は喉の調子が抜群によく、しかも会場の反響がいい。トントン調子よく進んで、あっという間に歌い終えたが、終了を告げても場には独特の奇妙な雰囲気が漂っている。
 要は「聞き足りない」という気分が満ち満ちていたのだった。爽やかな北海道らしい気候で、聴く側も元気いっぱいの様子。職員さんの「もっと聴きたいですよね~」の言葉が発端になり、いっせいに「アンコール!」の嵐となる。

 実は前回この施設では、突発的なリクエストが飛び出している。「美空ひばりを何か」と「なごり雪」がそれで、幸いに両曲とも無難にさばいたが、その再燃がちょっと怖かった。
「何でもいいでしょうか?」と前置きし、準備していた「月がとっても青いから」を素早く歌う。しかし、場の熱は収まらない。「リクエストをしてもいいですか?」との声があり、「曲次第ですね~」と言葉を濁しつつ、譜面で目についた「高原列車は行く」を続けて歌う。
 いわゆる「Wアンコール」で、曲数をこなせば、場は自然に収まるはずと踏んでのことだが、その考えは甘かった。
 歌い終わると、「長崎は今日も雨だった」との声。ついにリクエスト登場である。譜面があったかどうか咄嗟に思い出せず、首をひねると、「宗右衛門町ブルース」「中の島ブルース」と続けざまに飛び出す。
 珍しく男性からのリクエストで、どうにかお応えしたいと思うが、歌えない曲ばかり。やむなく譜面なしで「長崎は今日も雨だった」のさわりだけを歌い、「この先は分かりません、今度練習してきます」と逃げた。
 するとかの男性、「うまい!では『浪花節だよ人生は』はどうです?」と、重ねて請う。4曲目でようやくレパートリーにヒットした。

 以前に別施設でリクエストを受けて覚えた曲で、譜面はすぐに見つかった。このところ全く歌ってなかったが、無難にこなした。この曲が予想外に盛り上がり、ようやく場の気分も収拾。帰り際、「次回はぜひとも『宗右衛門町ブルース』を」と、かの男性から念を押されてしまった。
 以前にある施設でムード歌謡が拒まれた苦い経験があり、介護施設でこの種の歌はタブーと思ってきたが、場によっては当てはまらないらしい。何事も思い込みは禁物である。