理由は明快で、聴き手の中心層が小学生とその父母。「子供むけと大人むけの曲を半々くらいに」との要望だったが、小学生といえば私の孫の世代、その父兄といえど子供の世代であり、中高年を主たるターゲットにしている私にとって、かなり無理な要望のように思われた。
しかし、先方はぜひにという。打合せに出向いて知ったが、当初予定していた若手のアカペラグループが、突然のキャンセルで困っていたらしい。なるほどと納得。
とはいえ、演るとなればどんな構成でいくべきか、事前調整は必須である。最初の打合せでは電子譜面に10数曲の候補曲をリストアップし、1曲ずつさわりの部分を歌って選曲を進めた。
しかし、決まらない。過去にも似た対象のライブは何度か経験していて、いずれも苦戦している。聴き手と歌い手とに世代の隔たりがあるライブは、極力避けたほうが無難なのである。
先方の希望は転換を含めて30分、7曲ほどだったが、最初の打合せでは「カントリーロード」「グリーングリーン」の2曲しか決まらなかった。
他のライブに追われながらも、選曲にずっと頭を悩ませていたが、前半3曲を子供むけとし、後半の4曲を30~40代の大人むけの構成に完全切換えすることに腹を決めた。
大人むけの曲は80年代以降の曲が中心。これでも私にとっては、充分に新しい。先方のリクエストなどもあり、大半が初披露かそれに近い曲で臨むことが、ライブ直前になってようやく決まった。
当日は雨模様の不安定な天気。駐車スペースに屋台などが出るため、車は最寄りの有料駐車場に停め、そこから歩いて向かったが、途中からポツポツと大粒の雨が。用心して傘を持参して正解だった。
会場は1階の体育室で、壁際に一段高くステージが設営されている。私の出番は、子供よさこいダンス終了後の14時20分から。先方が準備してくれた4チャンネルの立派なPAのテストもスムーズに終わり、早めの14時18分から開始。
およそ27分で以下の7曲を歌った。(※は初披露、◎はリクエスト)
「カントリー・ロード◎」「エーデルワイス」「グリーングリーン※◎」「やさしさに包まれたなら※」「夏の終りのハーモニー」「ハナミズキ」「少年時代※◎」
歌い始めると雨はますます激しくなり、外にいて濡れてしまった人たちが次々と姿を消してしまう。会場には30席ほどの椅子が用意されていたが、聴き手は半分の10数人といったところだった。
この種の場の通例で、モニタースピーカーはない。しかし最近は客席側に向いているメインスピーカーからのわずかな音の返りと、自分の耳に直接届くボーカルとギターの音から、直感的にバランスをとって歌う技を会得しつつある。何事も経験である。
4曲目の「やさしさに包まれたなら」は子供から大人むけに切り換わるターニング曲。曲としては古いが、「魔女の宅急便」で使われたので、若い層にも比較的知られている。ここから子供(親子連れ)の数がさらに減り、終わりころには大人ばかり数人にまで減った。
しかし、残ったのは熱心に耳を傾けてくれる人ばかりで、1曲ごとに熱い拍手をいただく。小さな共有空間がぽっかりと一隅にできた感じで、チカチカパフォーマンスでもそうだが、真剣に聴いてくれる方がたとえ一人でもいれば、ライブは立派に成立する。
この日が初披露の「少年時代」は、打合せ段階でリクエストをいただいたが自信がなく、いったんは辞退した。しかし、適当な曲がないという切羽詰まった状況から歌わざるを得なくなり、必死で練習を重ねて何とかモノにした。
苦手だった理由は全体的な曲の難しさで、歌詞の世界が深く、転調やフェルマータの連発で、コード展開も非常に難解。ずっとストローク奏法で練習していたが、ライブ2日前になって突然、(やはりこの曲はアルペジオで歌うべき)と考え直し、特訓を重ねて本番は3種類のアルペジオ奏法を混ぜて、しっとりと歌い上げた。
ほぼ満足ゆく出来だったと自己評価。苦手はこの日で克服した感じだ。これまた何事も逃げずにやってみることだ。