2013年8月22日木曜日

真のアンコール

 個人的見解だが、ライブのアンコールには、以下のような種類があるように思われる。

《お約束アンコール》
 アンコールがあることが、ライブ実施前から決まっている例。自主企画のソロライブや、依頼型のソロライブ等がそれ。この種のライブでは、アンコールが含まれていることを聴き手が暗黙のうちに了解している節があり、完全にセットリストの一部と考えるべき。
 プロでもその例外ではないが、稀にアンコールが一切ないライブにも遭遇する。歌い手を含めた主催者側が、セットの中にわざとらしくアンコールを含める構成を嫌うケースと思われるが、作為的でないその分、むしろ好ましく感じる。
(昨年観た島津亜矢のコンサートには、アンコールが存在しなかった)

 私の経験では、介護施設系のライブでも事前にアンコールの準備を促されることがある。しょせんは「お約束」の範ちゅうなので、請われれば応ずるが、アンコールとしての有難味は薄い。

《時間調整アンコール》
 主催者側の都合で、時間調整として不意にアンコールを要求されるケース。複数の出演者がいて、入れ替わりながら順に歌う場などに多い。
 出演予定者が出番に遅刻したり、時間が予定よりまいて(早くなって)しまった場合、主催者側はどこかで進行を調整する必要がある。望ましいのは出演者ごとにこまめに調整することで、そこで突然の「アンコール!」ということになる。

 当然ながら、このアンコールは聴き手(客席)からではなく、主催者側から出る。その意味で真のアンコールとは言い難く、あくまで咄嗟の要求に応えられるか否か、歌い手としての力量とアドリブ力が問われる種類のアンコールである。
 うまくさばけば主催者の信頼は増し、次回のステージを約束されたり、別の場を紹介されたりもするので、いつでも応じられる準備はしておくのが得策。


《空気調整アンコール》
 場がライブそのものに慣れていず、何となく聴き足りないが、どうすればよいのか聴き手が分かっていない場合、終了後に独特の雰囲気になる。そんな空気を主催者側がいち早く察知し、「もう少し聴きたくないですか?」などと、さり気なく聴き手を誘うケース。
 介護施設系ライブなどでしばしば登場する。次項の「自然発生アンコール」に近い位置づけ。

《自然発生アンコール》
 聴き手側から何の作為もなく、自然発生するアンコール。時に主催者のスケジュールを狂わせたりもするが、これこそが真のアンコールであり、歌い手としては常にこうしたステージを目指すべきだろう。
 推定300~400回の場を過去にこなした私でも、この「真のアンコール」は、ごくわずかしか経験していない。いろいろな条件が整わないと出現しない、非常に稀なアンコールと言えるが、その分有難味は格別のもので、(歌っていてよかった…)と実感する瞬間だ。

 介護施設系やイベント系の場はもちろん、時に路上系の場でも出現する。介護施設系ライブの場合は、準備さえしていればあまり問題なくやれるが、イベント系ライブで他の出演者が複数いる場合、進行に影響する。しかし、聴き手が強く要求した場合、演らせてもらえることもある。
 イベント系ライブでの自然発生アンコールは、私には経験がない。(昨年の「すすきの祭り」でのアンコールは時間調整型)しかし、以前にたまたま通りかかった区役所前広場でのお祭りイベントで、非常に上手い3人組バンドがいて、終了後に観衆から自然発生の「アンコール!」が飛び出した。
 聴き手の一人だった私自身が、(もっと聴きたい)と思ったのだから、これぞ真のアンコールである。
 プロのライブは「お約束アンコール」が基本でミスは許されず、メンバーが多い場合などは事前にリハも済ませていないと、とても応えられるものではない。しかしこれにも例外があって、過去に一度だけ「自然発生アンコール」に遭遇したことがある。

 デビューまもない松山千春のライブで、予定通りに2曲の「お約束アンコール」を終えたが、熱くなった聴衆が拍手を続け、いつまでも帰ろうとしない。とうとう本人がギターを抱えて一人登場し、全く予定になかった曲をソロで歌って、どうにか場を収めた。ラジオ放送で聴いていただけだが、さすがプロだと感心した覚えがある。
「真のアンコール」の凄さは、聴き手が完全に場の空気を共有・支配し、納得するまで延々続く、というところだ。体力的には厳しいが、歌い手冥利につきる瞬間でもある。