映画の中盤でドラム合戦のまっ最中、前日に右手を傷めた裕次郎が途中でドラムを叩けなくなり、左手1本でシンバルを叩きつつ突然マイクをつかみ、「オイラはドラマ~♪」と歌い出す名シーンがある。観客は喝采、5人ほどのバンドメンバーは歌にあわせ、即興で伴奏をつける。
アクシデントを咄嗟のアドリブで乗り切るという設定だが、子供のころは「あんなことはあり得ん。映画の進行のために仕組まれたウソだ」と、抵抗があった。しかし、それなりに音楽活動を重ねたこの年になって再度同じシーンを観てみると、不思議に抵抗感が薄れている自分に気づく。
「咄嗟のアドリブをこなせるか否かが、プロとアマの大きな分かれ目」と、あるプロシンガーの方に聞かされたことがある。本番でミスをしないよう、練習に練習を重ね、機材には万一を想定してバックアップを用意し、可能な限りのリハーサルをして備える。それでも、シナリオにはない突発的なことは必ず起きる。それがライブの怖さだ。
そうしたハプニングに、いかにして瞬時に対応するか?そこにプロとしての力量が問われるというのだ。映画ではアクシデントを咄嗟の機転でうまくさばいた裕次郎が、一気にスターダムにのしあがる。
我が身を振り返ってみるに、過去には幾度か苦い経験もしているが、場数を重ねたいま、ライブでアドリブ的対応が要求される場面でも、それなりにこなせるようにはなった。
まだ自分でもよく分かってないが、練習の積み重ねと資質の両方の要素が必要な気がする。資質はさほどなさそうに思われるので、どうやら練習で補うしかなさそうだ。