札幌市から毎年送られてくるガン検査のリストを元に、近隣の検査機関を調べると、車で15分ほどのところに婦人科系専門の検査医院がある。事前に電話で診察時間を聞き、午後からさっそく出かけた。
あいにく駐車場は満杯。妻だけを降ろし、近くの電機量販店で時間をつぶす。小一時間後、歩いて病院に行ったら、妻は検査の真っ最中。しばらく終わりそうになく、持参した中華Padにインストールしてある電子書籍を読むことにした。
この種の病院に男の座る場所はあまりないが、待合室最後部にひっそり置かれた予備椅子を見つけた。
春の旅行でも機内で時間をつぶすのに重宝したが、著作権の切れた小説がネットから無料でダウンロードできる。長編は避け、リストから太宰治の「走れメロス」を選択した。
実はこの小説は初めて読む。「古典を読まずに小説を書くなかれ」と、よく言われるが、突き抜ける作品が書けない背景は、もしかするとそのあたりにあるのかと思いつつ、いやいや単に才能がないだけさ、と自嘲的に反芻しながら読み進むうち、あっけなく読了。
フランス映画のような不条理な終わり方を期待していたが、ごく普通の希望に満ちたエンディングである。これぞ日本文学、これぞ古典か。
ちょうど読み終えた頃、妻の診察が終る。マンモグラフィーその他の難しい器械での詳しい検査の結果、「単なる脂肪の固まり。放っておけば消える。手術も薬も必要ナシ」とのお達し。
以前にも妻は右手首に正体不明の膨らみができ、検査の結果脂肪の固まりと判明。切開して除去した経歴を持つ。脂肪がたまりやすい体質のようだ。
あれこれ悪い方の結果も考えていただけに、まずはよかったと正直胸をなでおろした。読み終えたばかりの小説の終わりと同じということで、確かにこればかりは不条理であって欲しくない。
年齢的にも2年に一度くらいは検査したほうがよい、と勧められたそうで、この年まで胃カメラはもちろん、ガン検査なるものを一度もしたことがない私も、ちょっと考えさせられてしまった。