2013年2月28日木曜日

イカスはヤバイ

「イカス」そして「ヤバイ」という言葉がある。いずれも若い人を中心に使われた流行語の類いだが、50年の歴史を誇る「イカス」はすでに死語の世界となってしまったのに対し、わずか30年の歴史しかない「ヤバイ」が市民権を得たのはなぜだろうか。
 具体例をあげる。「ヤバイ」は、かの宇多田ヒカルがデビューアルバム「First Love」の中にある「甘いワナ」という歌の中で繰り返し歌っている。これが1999年、彼女が16歳のときだ。

 宇多田ヒカル、現在30歳。まだまだ若い。そんな彼女がなぜ「危ない」「怪しい」「格好悪い」といった否定的な意味合いの言葉だった「ヤバイ」を歌詞に使ったか?
 ここからは推測だが、もしかすると彼女が「ヤバイ」を「凄い」「のめり込みそうなくらい魅力的」という、肯定的な意味で使い始めた先駆者ではなかったか。それこそが、言葉を巧みに操る秀でた才能の持ち主である証しか。
(この部分「日本語俗語辞書」を参考にしました)
 さて、次は「イカス」である。1950年代後半から芸能界を中心に盛んに使われたが、すでに10代20代の方には通じない言葉なのではないか?
 言葉の意味は「かっこいい」「魅力的」で、実は肯定的な意味での「ヤバイ」と大差ない。こちらも当時ヒット曲の中で使われた。真っ先に思い出すのが、フランク永井の「西銀座駅前」。
 1958年の曲だが、かなり売れたと思う。当時9歳だった私も、学校の行き帰りによく口ずさんだほど。

「イカス」はCMや日活の青春映画のセリフでも多用された。記憶がやや曖昧だが、森山加代子が「デイリーソーセージ」という、当時トレンドだった魚肉ソーセージのCMで「イカす味なノォ~♪」と歌っていた気がする。
 映画では、かの吉永小百合の名作「キューポラのある街(1962年)」「草を刈る女(1961年)」などでも使われていたはずで、当時は間違いなくトレンディな言葉だった。
 しかし、いまでも時折テレビで放映されるこの種の日活映画で、あの小百合サマが「イカすわ~♪」などと愛くるしい笑顔で語っていたりすると、見ているこちらが妙に気恥ずかしい。もはや廃れてしまった過去の言葉である証しだ。

 現段階で「流行語」と位置づけられている言葉を歌詞や文章に取り入れるのは慎重にというより、余程の理由づけがない限り、やめておいたほうが身のためであるかもしれない。