階段を降りてみると、居間のテーブルの上にチョコの箱が。数年前から夫婦間の義理チョコは廃止したはずが、なぜか虚礼復活である。
しかし、遠慮するほどの品ではなく、オヤツに最適のチョコワッフル。妻のキモチに感謝しつつ、美味しくいただいた。
日頃から気づいたときに夫婦間のプレゼント交換は怠っていないので、バレンタインデーだからといって、ことさら構えることもない。いわば、「毎日がバレンタイン」なのである。
就職で上京し、入った会社の先輩社員だったのが妻。別にバレンタインチョコを貰って付き合い始めたわけではなく、当時すでに婚約していた仲。東京を遠く離れた山中の現場勤務だったが、バレンタインにピタリ合わせて大型のチョコが届き、ちょっとうれしかったのを覚えている。
バレンタインチョコがまだそれほどメジャーではなく、「よく気のつく彼女だ」と、現場事務所で大騒ぎになったほど。
「チョコは消えるけど、何か残るものを」と、包みには小型のハンマーが入っていた。これでチョコを割って食べる趣向だったが、(ボクたちの仲もチョコのように割れてしまいやしないか…)と、ちょっと不安だったことも、よく覚えている。
いまでも保存してあるハンマーを何も言わずに妻に見せたら、経緯はちゃんと覚えていた。生者のあらん限り、思い出は生きん。