50年ぶりの同窓会で一昨年に再会して以来、私のライブに何度もおいでいただき、全道展会員である先生の絵の展覧会には、欠かさず顔を出している。
「交通費や謝礼は一切出せないという条件なのよ」と、先生は頼みにくそうな口ぶり。病院が主体の施設となると、条件としてはどこも完全ボランティアだ。
そもそも私の活動がボランティアを旨としたものなので、歌を評価してくれての依頼であれば、手弁当も厭わない。ましてや依頼主が小学校の恩師である。一も二もなくお受けした。
施設の場所は自宅から30分足らず。都心を経由しないので、渋滞の恐れはないが、前日にギター内ピックアップの電池が切れてしまったので、1時間前には家を出て、途中の100円ショップで買うことにした。
開演は14時だったが、15分前には余裕で着いた。この日は介護施設系ライブでは初めて赤いセーターと赤いバンダナで衣装をまとめた。施設内には赤い毛氈を敷き詰めた立派なお雛様が飾ってあったので、場の雰囲気にはマッチしていたと思う。
ホーム長さんの挨拶などあって、14時5分からライブ開始。およそ30分で以下の9曲を歌った。(※はリクエスト)
「うれしいひな祭り※」「真室川音頭」「リンゴの唄※」「宗谷岬」「荒城の月※」「二人は若い」「みかんの花咲く丘」「月がとっても青いから」「青い山脈※」「北国の春(アンコール)」
ステージは大きな窓を背にした広間の一角で、聴き手からは逆光で見えにくく、歌い手からは電子譜面搭載の中華Pad液晶が光って見えにくいという悪条件だが、この種の施設ではよくあること。事前に液晶の角度を入念に調整して備えた。
聴き手は職員を含めておよそ20名。事前にホーム長さんと選曲に関して打合せたが、なぜかマイナー調の静かな曲が多い。ニギヤカ手拍子系よりは、唱歌系の穏やかな曲を好む傾向ということで、リクエストもそれに沿ったものである。
こちらの選曲で全体のメリハリをつけるということになったが、いざ歌い始めると、予想以上に場が大人しい。2曲目の「真室川音頭」は普通どの施設でも手拍子が飛び出すが、最後まで静かなままだった。
あとで聞いたところによると、ギター弾き語りの訪問ボランティアは初めてだったそうで、普段は職員がアカペラで歌をリードしているのだそう。この日のPAは乾電池式のごく小型のものだったが、初めて目の前で生の弾き語りを聴き、その迫力に皆が驚いてしまったらしい。
場の反応がようやく生き生きし始めたのは、「荒城の月」あたりから。いつもとは違う雰囲気を察知し、珍しくMCを長めにとって場の気分を和らげようとしたが、この試みはある程度成功した。
聴き手巻き込み型の「二人は若い」で完全に場をつかみ、「みかんの花咲く丘」では、ほぼ全員が一緒に歌ってくれた。そのまま一気にラストになだれ込み、終了の挨拶を済ませたが、どうにも場が静まらない。
くしくも職員さんの間から「アンコールはないんですか?」。それを機に、会場のあちこちから「アンコール!」の合唱。施設系ライブでは進行の都合もあって、あまりアンコールは出ないが、ここではOK。ありがたく歌わせていただいた。
終了後、食堂の一角に案内され、美味しい抹茶と桜餅をごちそうになる。ホーム長さんからは、「こんなに素晴らしいとは思わなかった」と、別の病院系施設でのライブを打診される。
恩師のO先生にも大変喜んでいただく。何より、私を推薦してくださった先生の顔をつぶさずに済んだことを、まずは喜びたい。