2011年9月18日日曜日

場の熱冷まし

 連続3日目のライブとなる市内有料老人ホームでのお誕生会余興出演を無事に終えた。開始は午後からだったが、午前中に予定曲をざっとおさらいしたら、さすがに声に伸びを欠く。歌い込むうちに徐々に回復したが、喉に疲れが溜まっているのは間違いなかった。
 あまり無理せず、適当なところで切り上げる。外は小雨のパラつくはっきりしない天気。自宅からの機材の積み込みは雨に一切濡れずにやれるが、先方の駐車場から屋内への搬入が問題だった。肌寒いので長袖シャツに着替え、祈る気持ちで出発。およそ50分で着いたが、どうにか濡れずにやれた。
 開始直前になって施設長さんから突然、「菊地さん、『ハッピーバースデー』の伴奏をギターでやっていただけませんか?」と頼まれた。
 ときどきこうした依頼があるので、ある程度準備はしているが、胸騒ぎがしたのかつい先日、コードとキーのおさらいをしたばかり。(3カポのC)「いいですよ」と快諾し、PAなしでギターを準備。同時に歌詞と繰り返し回数の確認をする。
 普段はCDでやっているそうで、「やっぱり生演奏は全然違う」と、喜ばれた。


 14時15分から私の出番。機材をセットしたがPAの音が全く出ない。昨日の悪夢が一瞬頭をよぎったが、ミキサーの電源が入らないせいだとすぐに気づく。電池の蓋を開けてみたら、位置がずれて接触不良になっていた。エネループ電池にしてから収まりが微妙に悪い。入れなおしたらすぐに回復、事無きを得た。

 この施設に招かれるのは実に6回目。施設長さんの信頼が厚く、年に一度は呼んでいただく。
 叙情系の歌が好まれる場で、手拍子や歓声はほとんどないが、いつも静ひつで熱い反応のある場だ。この日は2日前のグループホームとはがらり構成を変え、叙情系の曲を中心に臨んだ。アンコールを含め、歌ったのは以下の11曲。

「高原列車は行く」「女ひとり」「浜辺の歌」「ナポリは恋人」「見上げてごらん夜の星を」「おかあさん」「瀬戸の花嫁」「この道」「ブンガワン・ソロ」「いい日旅立ち」「宗谷岬(アンコール)」

 前日までのライブとの重複曲は「高原列車は行く」「瀬戸の花嫁」の2曲だけで、「ナポリは恋人」「見上げてごらん夜の星を」が初披露、「ブンガワン・ソロ」が2度目という、大冒険を結果として試みた。
 いつものように強い手応えを感じつつライブは進んだ。初披露の曲も大きな問題なく、ある程度使えるめどがついた。
「浜辺の歌」では、1番を終えたところで、会場からさざ波のような拍手が巻き起こり、あまりない経験なので、背筋が思わずぞくぞくした。静かな曲では曲間にMCは入れにくいが、思わず「ありがとうございます」と、頭を下げた。過去にはない歌い方ができた感じがする。
 この日は全体的に気持ちが強く入っていたように思う。「おかあさん」でも、2番になってから自然に手拍子がわき起こり、それが最後まで途切れなかった。
 いずれも職員さんのリードではなく、自然発生したもの。最初に拍手や手拍子があり、曲の進行と共に次第に消えてゆくことがよくあるが、それは歌っていてさみしい。だから聴き手に拍手は強いないようにしているが、自然発生ならば非常にうれしい。

 施設長さんの了解をとり、「いい日旅立ち」をラストに歌って30分ちょうどで終わりとしたが、ちょっと場の空気がおかしい感じだった。私があまりに気持ちを入れすぎたせいで、会場がシンとお葬式のように静まり返ってしまったのだ。
 すると突然、施設長さんが「アンコ~ル!」と両手で拍手し始めた。ううむ、やはりそうかと、これまた事前に了解をもらって「宗谷岬」を歌う。意識して軽い感じのストローク奏法で歌った。イメージとしては場の熱冷ましである。
 終了後、事務室で施設長さんに「アンコールって、珍しいですよね?」と水を向けると、「いや、ちょっと場がしんみりしてたもんでつい…」無理お願いしちゃって、とすまなそうに言う。
 叙情系にこだわる余り、ライブの終わり方に対する配慮が少し足りなかったかもしれない。非は私にあったが、施設長さんの一瞬の判断でうまく収まってくれた。さすがである。
 数年前にも別の施設で一度だけ似たような状況になり、やはりアンコールで凌いだことがある。ライブの終わり方、収め方は本当に難しいと再認識。今日もまた学んだ。