すでに退職した方、勤務先が倒産した方、一度だけお会いしたが、もう二度とご縁はないと思われる方…、いろいろある。眺めているだけで、独立開業後の30年の月日が夢のように思い起こされる。
私はいまだにシブトク事業を継続してはいるが、いつまで続くことか。しかし、感傷は禁物。弾き語り関連の新しい名刺が続々と増えているではないか。捨て去る思い切りもまた必要である。
歯科検診の帰り、しばらく顔を出してなかった近隣のカフェに行った。午後4時過ぎの混む時間だったが、駐車場に車はない。ドアを開けると、珍しく店内に客は誰もいず、「今日は全くヒマなんです」と、マスターとママさんは所在なげだった。
景気の先行きについてしばし雑談を交わしたが、最近になって客足に大きな波ができつつあるらしい。開店後約2年で、これまでは順調な経営だったが、さすがに震災後の不景気の影響がで始めているのだろうか。
近隣の別のカフェが経営不振で最近閉店したことを伝えるとかなり驚いていたが、あらゆる分野で難しい時代に差し掛かっている実感はする。
実はつい最近、親しくしていた工務店が倒産した。30年の歴史があり、手堅い経営を続けていたが、「オール電化」を経営の柱に据えていたことが裏目に出たらしい。
北海道におけるオール電化住宅の比率は最近急増していて、2009年度の新築住宅では60%を越えている。多くの建設業者が力を入れてきたのもうなずける。
しかし、東日本大震災による原発事故により、オール電化住宅の市民レベルでの評価が一変した。厳しい節電や将来的な電力供給に対する不安感から、導入に二の足を踏む感情の流れができてしまったようだ。
私が過去に設計監理を手がけた住宅でオール電化はひとつもない。私の設計思想は無用なエネルギーを極力使わない、縄文的な器作りと暮し方の啓発で、現在もそれは自宅にて実践中である。
灯油消費量と消費電力量は、いずれも平均値の50%強。原発がいますぐ完全停止しても、とりあえず生活は成り立つ。
オール電化住宅は際限なき上昇指向のもたらしたシンボル的設計思想のように思えるが、今回の震災により、出口の見つからない致命的な打撃を受けたように感じる。
いま最も人心を引きつける住宅は、ずばり太陽熱発電を取り入れたものだろう。しかし、設置コストが高く、縄文的住宅思想には程遠い。回収するのに20年はかかり、同じく20年でパネル寿命がくるものを、そう簡単に取り入れられるだろうか?
現実的なのは気密断熱を強化し、エネルギー消費そのものを小さくしたパッシブ的思想に基づく住宅で、エネルギー源が石油でも電気でも受ける影響は少なく、設置コストもそう多くかからない。気密断熱材の寿命も相当長いことが立証されている。
以前からこうした考えを取入れている方々は、今回も大きなダメージは受けていない。太陽熱もよろしいが、パッシブ系住宅の優れた部分に気づいて欲しい。