2011年9月21日水曜日

3度目の壁

「仏の顔も三度まで」ということわざがあるが、同様に弾き語り系ライブにもプロやアマチュアを問わず、3度目の壁というものがあるように思う。
 私の中心活動である施設訪問ライブを例にとってみる。ネットや口コミなどの経由でまず最初の引合いがあり、スケジュール面での問題がない限り、最初の1回は確実に歌わせていただける。
 ここでトンデモナイ醜態をさらすか、余程先方の好みに合わないなどの問題があった場合、2度目の依頼はまずない。7年前に活動を始めた頃、こうした施設がいくつかあり、自らを省みて軌道修正と創意工夫をした結果、「一度こっきり」というケースは最近では少なくなった。
 さて、このあとである。先方に喜んでいただくと、たいていは2度目の依頼がある。しかもその間隔は短いだろう。「最初がとてもよかったので、次回もぜひに」、そう考えるのが普通の思考回路だからだ。
 頼まれると歌い手は当然うれしい。そこでまた受ける。ところが、2度目ともなると、どのような歌でも最初の感激は薄れる。残酷だが、人の感性とはそういうものだ。これを避けるため、歌い手はあの手この手で工夫をこらす。私の場合なら、最初とは全く違う歌を歌うとか、ハモニカやタンバリンの飛び道具を使うとか、歌謡劇のような趣向こらすなど。

 しかし、歌う人間が同じである限り、これでも聴き手はやはり飽きる。最も効果的なのは、同じ場所では1年以上歌わないことだ。ところが、2度目の依頼に1年以上間隔が空くことはまずない。繰り返すが、最初の感激が薄れないうちに同じ感激をまた得ようとするのが、これまた普通の人間の思考回路なのだ。
 何らかの理由により、この2度目の依頼をうまくこなせたとすると、ようやく3度目の依頼が届くだろう。冒頭で「3度目の壁」と書いたが、正確に書くと「2度目と3度目の間に高くそびえる壁」である。
 過去8年近くの活動記録を調べてみた。すると、この間に何と19回も依頼されているグループホームがある。次点は6回の有料老人ホームで、どちらも図抜けている。この2施設が私が乗り越えた「3度目の壁」である。
(ほかにも乗り越えた施設はあったが、いまでも途切れずに関係が続くのはこの2施設のみ)
 両者とも責任者との信頼関係が厚く、これだけつきあいが長く続くと、ほとんど家族のような間柄である。歌というよりむしろ、人間としてウマが合うか否かの問題にも思えてくる。そう、「3度目の壁」を乗り越える大きなポイントは歌そのものではなく、この人間的な相性にあると断言してもよい。

 実はこの2年ほどで、この「3度目の壁」の対象となっている施設がかなりある。歌い手としては同じ場で2度も歌わせていただけたら、万々歳とすべきなのかとも思う。
 札幌だけでも介護施設の数は数百を下らないはずで、何らかの芸能ボランティアをする人の数も、これまたかなりの数にのぼるだろう。聴き手に常に目新しい芸を提供する意味では、「3度目の壁」はあってしかるべきなのかもしれない。