「女が《ねぇ~、お願い。うっふん》と色気で迫ってモノを頼んできたら、たいていの男は断れませんな」
「そうね、男ってアナタも含めて、根本的にはスケベですものね」
「まあ、だから人類は滅びずに脈々と続いているのさ」などと。
私の場合、この種の「最終兵器」を過去に使われた記憶はほとんどなく、使っても効かない男だということが、直感で分かるのかもしれない。当然のごとく、妻はこの種の武器を使う女ではなく、人にモノを頼むときは、完全なる直球正攻勝負が常である。
こんなヨタ話のあと、買物を済ませてスーパーの駐車場に戻ったら、見知らぬ男性が近寄ってきて、「済みませんが、あの車をバックさせて、通路まで出していただけませんか?」と頼んできた。
何のことかといぶかったが、車の横には愛犬を抱えた上品そうな中年女性。聞けば並列駐車で頭から停めたはいいが、ハンドルを切り返してバックで出すことができないのだという。くだんの男性は、通りすがりに女性から頼まれたが、オートマ車の運転ができず、たまたま通りかかった私に「依頼の依頼」をしてきたという面倒な話。
(バックで出せない場所に停めなさんなよ)
(自分の手に負えないことを、また頼みするなよ)
(ワンコロ抱えて、でかい車に乗ってんじゃないよ)
などと、心中でブツブツつぶやきつつも、結局は運転席に座った。
私の車はマニュアル仕様の軽自動車で、オートマの大型車は2年前に息子の車に乗ったきりで、運転にはまるで慣れていない。ツマラナイ事情で他の車にぶつけてはこちらが困るだけなので、慎重に操作し、どうにか目的を達成した。
私に「また頼み」をしてきた中年男性、もしかして「うっふん」攻撃にやられたのか?
それにしても、かの中年女性、いつもこうしてどこかの誰か(たぶん男性)に車出しを依頼しているのだろうか?そして彼女の「最終兵器」は、いったいあと何年機能するのだろうか?等々、帰路の車中での話題はつきないのであった。
それにしても、かの中年女性、いつもこうしてどこかの誰か(たぶん男性)に車出しを依頼しているのだろうか?そして彼女の「最終兵器」は、いったいあと何年機能するのだろうか?等々、帰路の車中での話題はつきないのであった。