2010年7月3日土曜日

静寂祝祭再び

 午後6時から札幌の門馬ギャラリーで及川恒平さんのライブがあり、かなり前に予約してあったので、午後5時に車で家を出た。
 ライブタイトルは「静寂祝祭」。横浜や東京でも同じタイトルのライブをやっていて、いわば場を限定したシリーズものである。

 去年の夏にも同じ会場での「静寂祝祭」の第一夜を見届けた。去年は連続三夜、今年は連続二夜続けるという、精力的な意図である。
 道路が予想外に混んでいて、到着が開演5分前。幸いにギャラリー前の空地が臨時駐車場になっていて、すぐに中に入ることができた。
 ほぼ予定通り、6時過ぎに開演。今回もピアノ伴奏はウォンウィンツァンさんである。最初は及川恒平さんによるソロライブで、演奏曲は順に以下の通り。

《第1部》
・水に揺れる影(1976「僕のそばにいなさい」より)
・浜辺の歌(文部省唱歌)
・ガラスの言葉(1972吉田拓郎提供曲)
・薬箱(新アルバム「地下書店」より)
・地下書店(新アルバム「地下書店」より)


 今回はギャラリーの壁に美術作品が展示されたままになっていて、そのすべてが青い水をイメージしたコラージュ。それに合わせたかのように、ライブも「水」「ガラス」にちなんだ透明感のある楽曲から始まった。
 去年同様、会場にはPAがなく、高い位置で全体の音を拾うマイクが1本と、小さなスピーカーが床に1個置いてあるのみ。高い天井が醸し出すナチュラルリバーブ主体の音作りである。
 驚いたのは2曲目の「浜辺の歌」。恒平さんの唱歌は初めて聴いたが、すごくいい。私も介護施設などでよく歌う好きな曲なので、聴けてよかった。

 曲紹介もMCもなく、淡々とライブは進み、20分ほどで第1部終了。場内は5分ほどの入りで、満員だった去年よりはかなりゆったりしたアットホームな印象。不思議なことに聴き手の9割が女性で、これはピアノのウォンさんがいるからだろうか?

 休憩なしで第2部のウォンさんのソロ演奏が始まる。恒平さん同様にMCも曲紹介もなしで、連続して4曲を弾く。その後、5分のMCがあったが、それによると、出だしが即興演奏で、あとの3曲がテレビ番組用に作ったテーマ曲をアレンジしたものらしい。
 その後、会場のリクエストによるドビッシーの「アラベスク」「月の光」を弾く。MCを含めた第2部の合計時間は40分ほどで、時計はちょうど7時。ここで15分の休憩となった。
 7時15分から、恒平さんの歌とウォンさんのピアノ伴奏による第3部が始まる。無口だった恒平さんがようやく少し話し始め、曲の出来たいきさつなどを交え、以下の6曲を歌った。

《第3部》
・水のカノン(新アルバム「地下書店」より)
・木の椅子(30年前にウォンさんと作った曲)
・まだあたたかい悲しみ(新アルバム「地下書店」より)
・歌の手すり(新アルバム「地下書店」より)
・ゆきのこねこ(新アルバム「地下書店」より)
・地下書店(新アルバム「地下書店」より〜ピアノVer)

 いずれの曲も立ったり歩いたり、時には椅子に座り、時には階段の陰に隠れ、自在に動き回って恒平さんは歌っていた。「マイク前で歌う」という制約がないその分、自由なのだ。
 澄んだ水のようにピンと張りつめた心地よい緊張に包まれた会場のなかで、それが何とも不思議な感覚だった。
 第3部が終わって、時計は7時50分。二人はいったん楽屋に下がったが、かなり強力なアンコールが会場から湧いた。

《アンコール》
・いのち返す日(2002「しずかなまつり」より)
・くつを繕う(1993「みどりの蝉」より)

 アンコール2曲目の「くつを繕う」は、全く打ち合わせなしの曲で、ウォンさんも10年近く弾いていなかったとか。しかし、そこは即興も交え、見事に聴かせてくれた。会場の強い後押しが効いた印象だ。
 こうして中身の濃い2時間があっという間に終わった。

 アンコール2曲はくしくも、「死」「休息」をテーマにした曲である。今回のライブはここ数年の「糸田ワールド」の総括と同時に、新しい何かの「はじまり」を示唆するものと期待していたが、第3部2曲目の「木の椅子」と、このアンコール2曲にその胎動らしきものを感じた。
 恒平さんは今年62歳になるが、その創作意欲は衰えを知らず、常に新しいものを追求している。「たまに顔出す」程度の気まぐれなファンだが、今後も期待し、注目していよう。