2020年1月28日火曜日

「夏物語」を読んだ

 昨年から今年にかけ、年をまたいで川上未映子の「夏物語」を読んだ。
 2年越しになったのは図書館を利用したからで、前編が掲載された文學界2019年3月号をまず借り、読み終えた年末に後編の載った2019年4月号を借りようとしたら、あいにく2件の予約が入っていて、翌年つまりは今年まで待った。
 図書館には前後編が一緒になった単行本もあったが、毎日出版文化賞を受賞した直後ともあってか、300件を超える予約で埋まっている。在庫は3冊で、借りられる期間は2週間。単純計算しても1年は待つことになる。
 年間100万円生活を旨としており、新作の本を買うことは最近では稀。何か他に方法はないか…と考えたすえ、最初に作品が掲載された文芸誌を借りることを思いついた。
 図書館の検索システムで調べると、在庫はそれぞれ2冊のみだったが、大半の人は気づいてないらしく、予約数はごくわずか。長く待たずに読むことができた。


 とはいえ、合計1000枚という長編なので、読むにはある程度の時間と根気が必要。幸い、川上未映子は芥川賞受賞作の「乳と卵」を読んで以来、すっかり好きになった。
 今回の作品は特に前編がその「乳と卵」の続編のような形になっていて、登場人物は一部重なる。したがって非常に読みやすかった。私に続いて読んだ妻も同意見。

 後編はかなり内容が変わるが、「生きること、存在することの根源的な意味を問う」という壮大なテーマの芯がブレることはなく、一気に読めた。登場人物は非常に多いが、それぞれにキャラが立っていて、混乱することはない。
 作品中に卵子や精子という言葉が駆け巡るので、人によって好き嫌いが分かれるかもしれない。

 難点を書くなら、特に後編で会話文が非常に多いこと。自分としては、もう少し地の文を増やして欲しかった。展開に納得できない箇所も一部あったが、ストーリーの核心にふれるので、ここには書かない。
(また続編があるのでは…?)と思わせる意味深なラスト。若い作家なので、まだまだ書けそう。