ネットで私の連絡先を探し当て、ライブを依頼されたのが3月末のこと。4月上旬に会場調査をかねたプロジェクター投影のテストをやり、準備は万全のはずだった。
イベントは「花祭り」と称して、お茶やお香に私の歌をからめるという趣向。施設として初めてのイベントにしては歌単独でないことに、やや不安があった。
13時45分に会場入りし、機材をセット。音響のほかにプロジェクター投影の機材があるので、普段の倍近い10分を要した。
テストのときは晴天で歌詞が見えにくかったが、今回は小雨模様で室内は暗い。背面のカーテンを閉め、スクリーン前の照明をひとつ消すと、不完全ながらも歌詞はどうにか読めた。
14時ちょうどに歌い始めたが、複合イベントのせいか始まり方がやや曖昧。ライブの開演宣言と自己紹介は私自身の主導でやった。
1曲目を歌い始めると、職員さんから突然待ったがかかる。音が大き過ぎるので、落として欲しいという。マスターボリュームを30%ほど絞ったが、再開すると再度のストップ。これを計3度繰り返したが、何度調整してもOKが出ない。
やむなくPAのスイッチを切ってノーマイクで歌ったら、ようやくOKが出た。長く歌っているが、介護施設系でノーマイクで歌った例は過去に一度だけで、しかも自主的に仕掛けたものだった。
マイクはあるが、音は切れた状態 |
事前のマイクテストを怠ったツケだが、会場自体は充分に広く、他の施設なら間違いなくマイクを使っている。しかし、施設側の要望なので、従わざるを得ない。
以降、想定外のノーマイクで1時間10分、全18曲を休憩なしで一気に歌った。
「二輪草」「蘇州夜曲」「おかあさん(森昌子)」「みかんの花咲く丘」「恋のしずく」「恋の町札幌」
《リクエストタイム》
「酒と泪と男と女」「アカシアの雨がやむとき」「ブルーシャトー」「リンゴの唄」「川の流れのように」「青い山脈」「舟唄」「人生一路」「雪國」
《うたごえタイム&アンコール》
「上を向いて歩こう」「丘を越えて」「北酒場」
自由参加ということもあって、開始時点で聴き手は10名ほど。マイクが使えないという予期せぬ事態で気持ちがすっかり引いてしまったが、このところの過密スケジュールへの対応でPA一式は自宅玄関ホールに置いたまま。日々の練習はずっとノーマイクでやっていたので、声はまずまず出た。
しかし、マイクを使わない歌唱には、ある程度の準備も必要である。特に低音部の発声や強弱のつけ方が難しい。しばらくは手探りの進行が続いたが、6曲目を終えた時点で、突然M子さんからリクエストの提案がある。
時計は20分ほど過ぎたところで、リクエストタイムには早すぎる気がしたが、場がやや沈滞気味だったので、気分を変えるには絶好と判断。即座に応じることに。
事前にリクエスト一覧は配ってなかったが、準備だけはしておいたので、ただちにM子さんに手渡す。A4だと文字が小さいとのことで、施設のコピー機でA3に拡大して配布した。
やがて出たリクエストが、リスト一覧にはない「奥飛騨慕情」。この曲はそもそもレパートリーにもない。「一覧表にある曲をお願いします」と、再度告げる。
職員さんや聴き手もようやくこちらの意図を理解してくれたようで、以降次々とリクエストが出た。やはりここでも人気は昭和歌謡系である。
歌い始めは立ち込めたお香の匂いが喉に苦しく、野点ふうの設定で抹茶とお菓子が順番に利用者に配られ、会場は落ち着かない雰囲気が続いた。
ライブ前半はBGM的なガマンの進行だったが、30分が経過してリクエストが順調に出るようになってから、ようやく聴き手が歌に集中してくる気配を感じた。
音を聴きつけて居室から会場に現れる利用者も増え、終わる頃には20名近くに達する。聴き手も職員さんもライブ自体に不慣れのように感じたので、リズミカルな曲には事前に手拍子を促した。
進行はある程度任されていたため、1時間が経過した時点でリクエストを打ち切り、ラスト用に歌詞を拡大して準備した「上を向いて歩こう」を全員で歌う。
アンコール2曲は利用者から出た自然発生的なもの。M子さんはもっと歌って欲しいような感じだったが、心身に負担のかかるノーマイク歌唱でもあり、聴き手の体力を考慮すると、時間としては妥当なところだろう。
終了後に近寄って声をかけてくれた方が数人いたので、難しい条件がそろった割には、結果的にライブは成功だったと自己評価したい。初めて本番で使った廉価プロジェクターでの投影は外の曇天にも救われて、まずまず使えた。