2017年3月20日月曜日

ずっと聴いていたい

「あなたの歌を以前に聴きました」と、見知らぬ女性から電話があった。前の職場で偶然私の歌を耳にし、ぜひ自分の施設でも歌って欲しいと思ったという、大変ありがたい話。内部移動で新規デイサービス責任者となったそうで、開業して半年ほどの施設だった。

 ライブの新規依頼にはいくつかのパターンがあり、最も多いのがネット検索によるもの。単なる知人の紹介もあるが、今回のように実際に私の歌を聴いての依頼も少なくない。
 それが公的空間でのライブだったり、路上ライブだったり、介護施設訪問だったり、きっかけとなる場は多種多様。歌っている限り、チャンスはどこにでも転がっているものだ。
 系列のデイサービスでは数多く歌っていたが、訪問先としては初めてなので、聴き手の嗜好を相手に尋ねた。すると、気持ちの若い方が多い、とのこと。毎日のサービス開始時には「365日の紙飛行機」を、終了時には「また逢う日まで」を全員で斉唱しているという。確かに若い。
 ラストの曲をいくつか提案したが、「上を向いて歩こう」「青い山脈」「また逢う日まで」のうち、「また逢う日まで」で即決した。

 構成は最近急増している市の介護予防事業でのものをベースにすることに決め、後半にリクエスト一覧を使った本格的なリクエストタイムを設けることになる。


 場所はやや遠いが、幹線道路沿いの分かりやすい位置にあり、40分ちょうどで難なく着いた。施設長さんや担当の方と細部を詰める。リクエスト一覧の出し入れは、場の雰囲気を見て決めることになった。
 時間ぴったりの13時半に開始。予定を大幅に超え、1時間15分で20曲を歌う。
《セレクトタイム》
「北国の春」「バラが咲いた」「おかあさん」「真室川音頭」「大空と大地の中で」「青春時代」「さくらさくら」「恋のしずく」「釜山港へ帰れ」「夜霧よ今夜も有難う」「時の流れに身をまかせ」「いい日旅立ち」「浪花節だよ人生は」

《リクエストタイム》
「愛人」「オー・シャンゼリゼ」「星影のワルツ」「落陽」「カントリー・ロード」「神田川」

《うたごえタイム》
「また逢う日まで」


 聴き手は30名弱。デイサービスとしては珍しく男性の比率が高く、およそ4:6ほどか。開演前から男性女性それぞれから、「楽しみにしてますよ」「弾き語りがあるというので、利用日を超えて聴きにきました」などと声がかかり、非常にやりやすい雰囲気のなかで歌い始めた。
 ほぼ全ての曲に間奏で拍手が湧き、喉は決して万全ではなかったが、聴き手にあと押しされるように調子はじわじわと上向いていった。
 この日はプロジェクターによる歌詞拡大投影はなく、聴き手参加型の曲もほとんどない。純粋に歌だけを聴いてもらう形となったが、「青春時代」あたりから涙を流す方が続出し、職員さんがティッシュの箱を持って走り回るような状態だった。
 聴き手の涙は特に狙っているわけではなく、そもそも狙って泣いてもらえるほどライブは簡単ではない。

 施設によって歌い手に求めるものはさまざまだが、私の場合、歌を聴いて自然に涙が流れるという「傾聴型」のスタイルが、結局のところ最も自分に向いているように思える。


 予定としてはリクエスト3曲程度、計1時間で終えるはずだったが、聴き手から「もう少し…」「ずっと聴いていたい」という声が相次ぎ、簡単に打ち切れない状況になった。
 請われるままに歌い続けたが、6曲のリクエストに応じた時点で「お応えできなかった分は、また次回へのお楽しみということで」と、私から提案。ようやく場を収めることができた。

 結果として「悲しき街角」「愛の讃歌」が歌えずじまい。撤収しながら一部をアカペラで歌って差し上げると、「また明日歌いに来てね」との声がかかる。さすがに翌日では厳しいが、聴き手からの要望で次回訪問がほぼ決まってしまうという、珍しい幕引きとなった。
 曲の嗜好など、歌い手と聴き手の相性がいい場なのだろう。長く続きそうな気配である。