2017年3月17日金曜日

「コンビニ人間」を読んだ

 村田沙耶香による2016年芥川賞受賞作、「コンビニ人間」をようやく読んだ。
 過去の芥川賞受賞作は概ね読んでいるが、単行本で買うことは稀で、最近では又吉直樹の「火花」を電子本で買ったくらい。たいていは掲載された文藝春秋を、少し遅らせて地域図書館から借りて読む。
 年100万円生活を本気で目指そうとすると、本だとか音楽CDだとかの教養費は、節約の第一ターゲットになってしまう。かといって教養娯楽に無縁の生活では侘しいので、本は図書館で借り、音楽はYouTubeで情報収集、というのが最近の傾向。

 その「コンビニ人間」、妻がまず最初に読んで、「面白いわよ、一気に読める」と勧めた。返却期日ぎりぎりになって読み始めたが、前半があまりに冗漫で、途中で投げ出しそうになった。
 最近読んだ「火花」でも似た感情に襲われたが、珍しく千円を払ったので挫折してはもったいないと思い、ガマンして最後まで読み切ったものだ。
 このところ面白い小説になかなか巡り会えず、そうした傾向が文学全体の劣化に拍車をかけているように思えてならなかったが、
(「コンビニ人間」よ、お前もか…)と一瞬思った。
 栞をはさんで一晩寝たあと、気を取り直して続きを読み始めた。すると、ある一点から急にストーリーが動き出し、俄然面白くなった。
 Wikipediaではすでにあらすじが公開されているので少しだけ書くが、30代半ばの女性主人公が、似たような状況にあった同世代のバイト仲間の男性と、深く関わることになる時点からだ。
 書き進むうちに小説中の人物が自然にそう動き出したのではなく、作家は最初からその展開を頭に置いて書き進めた印象がする。しかし、この転換ポイントが小説のツボであることは間違いなく、ここからは一気に読める。

 気の利いた比喩や難解な仕掛けはないが、読後感はさわやかだった。登場人物が10人近くもいるが、それぞれにキャラが立っていて、混乱することはない。
 舞台がコンビニなのでコンビニの商品や形態描写がたびたび登場するが、ちょっとうるさい印象が私にはした。しかし妻によると、「あれくらいは必要でしょ」と肯定的。人物の心理描写がない、という選考委員の否定的意見もあったが、全体として面白いので許せる。

 文学の衰退が叫ばれて久しいが、話題性にばかりとらわれず、単純な「面白さ」をひたすら追求してゆけば、活路はそこから開けてゆくのではないか。