2016年3月22日火曜日

座って歌った

 3月3度目のチカチカパフォーマンスに参加。例年この時期は介護施設系ライブの依頼が少なく、たまたまチカチカパフォーマンスの割当て枠が多いので、いつもより歌う回数が増える。
 この日は前回に引き続き、「チカホで歌声サロン」の新パターンを試すつもりだった。前回は看板表示と声かけを試したので、今回は審査委員長から提案のあった「座って歌う」スタイルを久しぶりにやってみる。

 どの場でも「立って歌う」を自分の標準スタイルにしているので、座って歌うには事前の準備が必要だった。自宅スタジオに本番と全く同じ機材をセットし、数日間試す。
 座って歌うには組立式の椅子と専用の電子譜面スタンドが必要で、量ってみると重量が1.3Kg増える。前回から往復4キロの道を歩いて会場にむかう「究極の節約コース」をとっているので、機材はなるべく軽いほうがいい。
 そもそも立って歌うほうがフットワークがよく、声も出やすい。しかし、「座って歌えば、周囲に人が集まってきやすいのでは?」という提案も無視できない。まずは試してみることだ。
 この日も3組の共演だったが、普段やや遅れてやってくるパフォーマーだったので、早めに会場入りする。案の定広場には誰もいず、事務局での受付も私が最初。2種類の看板を持ち、久しぶりにトップで演ることになった。
 定刻よりやや遅れて、14時4分から歌い始める。短い休憩をはさんで、計1時間で16曲を歌った。(※はリクエスト)

《前半》
「時の過ぎゆくままに」「ドミノ」「なごり雪」「長崎は今日も雨だった」「桃色吐息」「小樽のひとよ※」「ダスティン・ホフマンになれなかったよ※」「池上線※」「天城越え※」

《後半》
「釜山港へ帰れ」「鱒」「時の流れに身をまかせ」「野ばら」「愛燦燦」「抱きしめて(オリジナル)」「池上線※」


 この日も構成は多ジャンル思いつき型を採用。時節柄「なごり雪」を歌いたかったので、「な行」とその前後の曲を適当に選択した。
 3連休直後の週初めとあって、人の足取りは一様に早い。スタート3曲までは全くの無反応。年度末ということもあって、足を止めて歌うを聴く余裕もないように見えた。過去の記録でも、この時期は例年聴き手の反応が弱い、とある。
 それでも4曲目の「長崎は今日も雨だった」から立ち止まる人が増え始め、「桃色吐息」でかなりの数になる。直後にリクエストが出て、それを機に4曲続いた。

 この「忙しい状況下でも多くのリクエストが出た」という事実は、もしかすると「座って歌う」というスタイルと心理的につながっていたかもしれない。このあたりはもう少し見極める時間が必要だ。

「ダスティン・ホフマン…」は当初「過ぎ去りし想い出は」を望まれたが、あいにくレパートリーになく、妥協案として歌ったもの。大塚博堂は要望が多いので、今後レパートリーを増やさなくては。
 リクエストが連発した時間帯で聴き手は10人ほどに達したが、「天城越え」を潮に一斉にその場から消える。前回もそうした傾向があったが、滞留時間が10数分と短い。
 実はこの日はラストに「また逢う日まで」をその場に居合わせた方々とシングアウトするべく、完全に暗譜して備えていた。座っている状態からPAの接続を切って立ち上がり、聴き手に近寄って歌いながら歩く、という構想である。
 これまたオーディション時に審査委員長から出たアイデアで、2つを一気にまとめてやってしまおうと考えた。しかし、どうやらタイミングを逸してしまったようだ。その後人の集まりは散発的になり、とてもシングアウトを仕掛ける状況ではない。

 聴き手が途絶えたので、最後と思って久々にオリジナルを歌っていたら、目の前にきて熱心に聴いてくれる中年女性が現れる。
 聴き終えた女性、「あのう…、もう一度《池上線》を聴きたいのですが、ダメでしょうか?」と尋ねてくる。
 たったいま歌ったばかりなので、先ほどの方ですか?と確かめると、違うという。通りかかって最後のフレーズだけ聴いたが、どうしてももう一度最初から聴きたくなり、用を済ませて広場に戻ってきたという。ありがたい話なので、もちろんお応えした。
 歌い終えたちょうどその時、共演のパフォーマーが広場に現れたので、ステージは終了とさせていただく。その場に残った女性としばし歓談したが、若いころに東京の西武線沿線に住んでいたことがあり、似た情景を描いたこの曲には、強い思い入れがあるという。
 実は私も以前、池上線の近くに住んでいて、歌の世界そのままのシーンを実体験しているのです、などと応じた。
 好きな歌だが、最近はとんと聴く機会がない。まさか生歌で聴けるとはと、大変喜んでくれた。大塚博堂のリクエストでも同じ主旨のことをよく言われるが、この「いまでは滅多に聴けなくなった名曲」というのは、路上系シンガーが発掘し、歌い継いで行くべきではないか。

 ねらっていた歌声サロンとしての明確な効果は得られなかったが、やはり座って歌うスタイルは、聴き手との距離感を縮めるのに有効のようだ。機材重量の問題はさておき、今後も状況に応じて仕掛けてみたい。