2015年1月22日木曜日

精神科ケアコンサート

 市内遠方にある某精神病院のケアコンサートに出演した。依頼は昨年11月ころにネット経由であったが、患者の療法の一環として歌って欲しいとの打診に、自分には荷が重すぎるように感じ、二の足を踏んだ。
 しかし、ネットで私の活動をよく調べたすえの依頼らしく、「菊地さんが普段演っているスタイルのままでいいですよ」とのお話しに、やってみる気になった。

 とはいえ、未知の場であることに変わりはない。30代前半から60代後半の通院患者30名弱が聴き手で、年齢層はかなり広い。平均年令は50歳ほどで、イメージとしてはチカチカパフォーマンスのターゲット年齢層あたりか。
 遠方ということもあって下調査の時間がとれず、自分なりに構成を練って準備した。
 このところライブになると悪天候、そして種々のトラブルが重なっていたが、珍しく何事もなく出発できた。しかし、一車線道路に入ってから急に流れが悪くなった。あちこちで除雪排雪作業をやっていて、路肩の違法停車も多数。豪雪の爪痕は深い。
 余裕をみて予定の1時間半前に出たはずが、到着は開始15分前だった。


 リスクを避け、この日も2スピーカー方式を選択。会場が横にかなり広かったが、余裕をもって対処できた。
 定刻の14時からライブ開始。先方の希望通り、ぴったり40分で以下の11曲を歌った。

「ブルーライトヨコハマ」「いい日旅立ち」「つぐない」「糸(初披露)」「サボテンの花」「仰げば尊し」「カントリー・ロード」「雪國」「レット・イット・ビー(オリジナル訳詞)」「エーデルワイス」「天使のウィンク」

 通院患者以外に入院患者の姿もあり、聴き手は職員も含めて40名ほど。なぜか10歳くらいの女の子が2人いた。誰かのお見舞いに訪れたついでだったかもしれない。子供むけの曲が偶然あって、幸いだった。
 構成には頭を悩ませたが、季節感に配慮しつつ、普段よりやや叙情性を強くして、アルペジオ系の曲を半分ほどに増やした。幅広いジャンルからの選曲にも腐心した。
 場は終始静ひつ。聴き手全員が席についたまま、身動きひとつしない。しかし1曲終えるごとの拍手は熱かった。
 この日は努めて譜面を見ずに、会場を見回しながら歌うようにしたが、聴き手の射るような視線に圧倒された。歌に対する強い集中力を感じた。

 手拍子や笑顔そして涙、一緒に歌うなどの反応も皆無に近い。これまで病院の内科や整形外科でのライブ経験はあるが、反応は全く異なる。難しいといえば、これほど難しい場はないかもしれない。
 聴き手参加型や暗黙に手拍子を促す曲は意図的に外したので、ライブ自体は問題なく進んだ。


 途中、看護師さんに手を引かれて50代とおぼしき男性入院患者が現れたが、会場は満席で私の目の前の席しか空いていない。席についたその男性、寝ていたところを起こされでもしたのか、そのままテーブルに伏せてしまった。
 一瞬やりにくい雰囲気になったが、平静を装ってそのまま淡々と歌い続けた。すると、「サボテンの花」になって急に男性が起き上がり、熱心に聴き始める。そのまま最後まで聴き続けてくれた。

 ずっと静かなままだった会場が、「最後は明るく締めくくりたいと思います」とMCで告げて「天使のウィンク」を歌い始めると、期せずして小さな手拍子が湧き上がり、たちまち会場全体に広がった。
 ていねいに歌い続けたことが報われた気持ちで、普段のライブとはちょっと違う喜びが、身体中に湧き上がった。
 終了後に担当の方にうかがうと、どのようなパフォーマンスでもこうした静ひつな雰囲気になってしまうそうで、それは「他とのコミュニケーションが苦手」という、症状のひとつでもあるのです、とのこと。
 とはいえ、終了後に「よかったよ〜」「また来てね」と明るく声をかけてくれた中年女性も数人いたので、初めて経験する難しい場としては、満足すべき結果だったと自己評価したい。