しかし、実際に首にかけて見ると、なかなかよく似合う。派手過ぎず、かといって地味過ぎもせず、ほどほどなところがよろしい。この種のものは値段ではなく、最も大切なのは気持ち。お金を稼ぐのは元来下手だが、気遣いで何とかそれを補っている。
いつもはシンプルな品ばかり選ぶ妻だが、今回は黒と赤の組み合わせという、ちょっとした冒険をした。たまにはこんな品も変化があってよい。
実は結婚直後に、9ヶ月近く四国の高松に現場赴任したことがある。長女の出産を控えていた妻は、現場の竣工前に一足早く実家に帰したが、遅れて一人東京本社に戻った私は、途中の宇高連絡船の中でふと思い立ち、売店に並んでいた赤い珊瑚の指輪を記念にひとつ買った。
写真の左にあるのがそれで、当時は私の小指が妻の薬指にぴったりだった。買う時に妻はいず、そうやって私一人でサイズを測った。しかし、いまはすっかり指が太くなってしまい、妻の薬指にははまらない。
苦労をかけたのかな、と思う。
記憶では、確か2,800円だった。こちらもたいした品ではないが、控え目な赤が、いかにも妻に似合っていた。
35年の月日で指輪の珊瑚は色が少し薄くなったが、こうして二つの珊瑚を並べてみると、長い月日の積み重ねと、そこに込められたたさまざまな喜びや哀しみが、ひたひたと心に蘇ってくるのだ。
二つの珊瑚に包み込まれた想いが、確かに時を継いでいる。