2010年3月15日月曜日

時を継ぐ珊瑚

 数日前にネット通販で注文してあった珊瑚のネックレスが届いた。結婚35年目を記念する妻へのプレゼントで、蝶をモチーフにした斬新なデザイン。送料込みで5,600円と安い。
 しかし、実際に首にかけて見ると、なかなかよく似合う。派手過ぎず、かといって地味過ぎもせず、ほどほどなところがよろしい。この種のものは値段ではなく、最も大切なのは気持ち。お金を稼ぐのは元来下手だが、気遣いで何とかそれを補っている。

 いつもはシンプルな品ばかり選ぶ妻だが、今回は黒と赤の組み合わせという、ちょっとした冒険をした。たまにはこんな品も変化があってよい。


 実は結婚直後に、9ヶ月近く四国の高松に現場赴任したことがある。長女の出産を控えていた妻は、現場の竣工前に一足早く実家に帰したが、遅れて一人東京本社に戻った私は、途中の宇高連絡船の中でふと思い立ち、売店に並んでいた赤い珊瑚の指輪を記念にひとつ買った。

 写真の左にあるのがそれで、当時は私の小指が妻の薬指にぴったりだった。買う時に妻はいず、そうやって私一人でサイズを測った。しかし、いまはすっかり指が太くなってしまい、妻の薬指にははまらない。
 苦労をかけたのかな、と思う。
 記憶では、確か2,800円だった。こちらもたいした品ではないが、控え目な赤が、いかにも妻に似合っていた。
 35年の月日で指輪の珊瑚は色が少し薄くなったが、こうして二つの珊瑚を並べてみると、長い月日の積み重ねと、そこに込められたたさまざまな喜びや哀しみが、ひたひたと心に蘇ってくるのだ。
 二つの珊瑚に包み込まれた想いが、確かに時を継いでいる。